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第110話 『桜、咲く。』の夜(R18)
「わあーっ! 桜の写真がいっぱーい!」
「こら、姫。はしゃぐな。個展では大声で喋っちゃいけないって、さっき受付の人に言われたでしょ」
「ごめんってば」
姫くんとおこめのやりとりを、桜は近くで眺めていた。
今日のこの『桜、咲く。』という個展は、写真家である真柴睦月の初の個展だ。そこに、2人も駆けつけてくれたのだ。半年以上も2人に会わなかったことは初めてで、はじめは昔みたく振る舞えるだろうかと柄にもなく緊張していた桜だったが、2人が桜を見つけるなり早歩きで近づいてきてハグされたのだ。
姫くんからは甘いハイブラの香水が香る。おこめからは柔軟剤のフローラルブーケの香りがする。匂いひとつとっても個性が出ていて、そんな2人にハグされると緊張も吹き飛んでいってしまった。
「桜。これ全部、真柴さんっていう人が撮ったの? もともとモデルばりに見た目いいのに、なんか更に磨きがかかってるんじゃない?」
によによ、と含みのある笑いを浮かべる姫くんに耳打ちでこそっと囁かれる。
「お肌のつやでわかっちゃうんだあ。めちゃくちゃ愛されてるね」
「……ば、ばかっ。そんなんじゃないってば」
急にピンク色の話に誘導されそうになり、桜は慌てて否定した。おこめはジト目で桜を見つめると、寂しそうにため息をついた。
「桜。ついにお嫁さんになっちゃったんだ……」
「いやいや、お嫁さんじゃなくてさっ」
天然男子のおこめはそう捉えたらしく、姫くんの言葉で一気に話がややこしくなってきた。
そんな桜の後ろから、にゅっと長い手が出てきた。まとっている香水の匂いでわかる。桜とおそろいだから。
「君たちも来てくれたんだね。ありがとう」
「そりゃあ、桜のご主人様に招待されたら来ないわけないっしょ」
姫くんの言葉におこめもうんうん、と頷く。
「えっ? お前ら真柴さんに招待されたのか?」
思わぬ接点に戸惑いを隠せずにいると、更に真柴の後ろから大きな人影が現れた。
「んもうー。真柴先生ったら、ワタシに何回もラブコールしてくれて、桜くんにサプライズしたいから皆を呼んでくれって言って聞かないのよ。だから、ワタシが連れてきたわ。ひいらぎ荘の子たちと、ほら後ろに」
オーナーの後ろから、ひょこっと顔を覗かせたのはミケ先輩とルイだった。ルイは相変わらず無理やり連れてこられた感満載で不機嫌そう。だけど、ミケ先輩は桜に抱きつくなり、一言。
「桜っ。お前が幸せそうにやっててめっちゃ嬉しい」
「ミケ、先輩……」
「これ、俺らからな」
ふわっと甘い香り。桜の目の前には白い薔薇と水色の薔薇が包まれた花束が差し出された。
「桜。誕生日おめでとう」
「……皆」
振り返れば皆に囲まれていた。そして隣には真柴の姿がある。
「ありがとう。皆、本当に……やば、泣きそう」
「おいでおいで。胸貸してあげるからっ」
姫くんがおいで、と両手を広げてくれていたので桜は一目散にその腕の中に飛び込んだ。背中にはおこめがくっついてきて蓋をしてくれて、皆に泣き顔を見られることはなかった。
「お前ら最高。愛してる」
思わず零れた言葉に、皆はにっこり笑ってくれたが真柴だけは少しだけ無表情になる瞬間があった。
(まずい。まさか、今の言葉で嫉妬したのか?)
桜はその後、個展のツアーをしてくれる真柴から少し離れた距離で皆の様子を眺めることにした。帰ったら面白い展開になりそうだと、内心にやにやしながら。
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