115 / 116
第115話 俺が桜の抱き枕になる日
お腹も膨れた帰り道。タクシーを拾い家に帰る。部屋に入ると、桜はお腹いっぱいになって眠たくなってきたのか自室のソファの上に寝転びうとうととしている。今日は慣れない撮影もあって疲れただろう。
そう思って俺は桜の肩を軽く揺すった。
「ベッドで寝るか? ソファだと、身体が痛くないか?」
「んー……ベッドもいいけど、睦月さんが買ってくれたこのソファもちもちで柔らかいからこのまま寝たいな……ダメ?」
あざとすぎる桜の前に、俺は何も言えなかった。寝室からブランケットだけ持ってきて桜にそっとかけてやる。しばらく寝かせてやろうと思いソファから離れようとすると、桜に服の裾を握られて止められた。
今日は甘えんぼうモードなんだな。
桜には2つのモードがあると俺は分析している。普段のつんつんモード。プライドが高く、妥協しない完璧主義な桜。
もう1つは、今の桜のようにたまに顔を出してくる甘えんぼうモード。子猫みたいに俺にくっついて離れなくなるのだ。
「睦月さん、一緒に寝たい……」
「添い寝ならしてやれるが、ソファだと狭くないか?」
「ううん。ソファだからいつもよりぎゅってできて好き」
「……」
桜の破壊力満点のにへら照れ笑顔を見て、全身に雷が落ちたようにその場から動けなくなった。思わず口に手をあてて顔を隠す。たぶん、今の俺の顔は嬉しすぎてにやにやしているだろうから。桜にバレたくなくて無表情のポーカーフェイスを意識するが……果たして耐えられるだろうか。
「わかった。じゃあ今日は俺が桜の抱き枕になる日だな」
くしゅ、と桜が笑って目元が穏やかになる。俺の手を引くとソファに寝転ばせてきた。俺を抱き寄せぎゅっと離さない。俺の肩に頭を預けてとろけそうな顔で目を閉じている。口元はにんまり上がっていて、ご機嫌な様子だ。
こんな休日も悪くないな。
俺が抱き枕になるのも、悪くない。
「おやすみ。睦月さん」
「ああ。おやすみ。桜」
部屋のライトを消して暗闇の中、桜の寝息だけが聞こえる。心地いい人肌の温かさに包まれて俺も眠気に誘われた。
眠っている時も強く握りしめてくる桜の手のひらのぬくもりを感じながら。
ともだちにシェアしよう!

