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第13話

 まぶしい光に目を覚ましたエルは、ふわふわなベッドから起き上がる。  少し前までは、考えられなかった土の匂いがしないあたたかい朝に、それだけでも幸福を感じる。  そっとベッドから降りると、エルはまずググッと伸びをした。    しばらく待っていると、アザールがやってきて、エルは昨日早速覚えたばかりの言葉を、彼に向かって投げてみた。 「お、おはよぉ……?」 「! ああ。おはよう」  僅かに目を見張った彼が、目尻をほんのり柔らかくして返事をしてくれる。  それが嬉しくて、口元を手で隠すようにして小さく笑うと、彼はエルの頭を優しく撫でた。 「上手だ。──朝食の時間だから、いこう」 「ちょう……ちょうちょ……」 「朝食。朝ご飯だ」 「ごはん!」  そうしてアザールに手を引かれながら、エルはまだ少し舌足らずな発音で「ごはん、ごはん」と繰り返しながら廊下を歩く。  慣れない靴に包まれる足は、少し窮屈だけれど、冷たくも熱くもなく、足の裏が痛くならない靴は、エルのお気に入りだ。  朝の光が大きな窓から差し込む。ルンルンと機嫌よく歩くエルの背を照らした。 「今日は、温かいスープと、パン、それから……甘い果物もあるぞ」 「あまい」 「そうだ。──“甘い”。きっとエルも好きな味だ」  アザールの言葉に、エルは目を輝かせた。  知らない単語があるたびに、彼はちゃんと教えてくれる。そうして少しずつ話せる言葉が増えていくのが、嬉しかった。  食堂に着くと、料理が並ぶテーブルの前の椅子を、アザールがそっと引いてくれる。  エルは「ありがとう……」と、覚えたばかりのお礼の言葉を、自信なさげに伝えてみた。 「はは。ちゃんと覚えているな。……えらい」  そんなエルを見つめるアザールの眼差しは、まるで大事な宝物を見るように優しい。  自然と目尻が垂れて、エルも笑顔を見せた。  怖かったはずの彼なのに、怖いところなんてひとつも見当たらない。   「アザール、アザール、ごはん!」 「ああ。俺も食べるぞ」 「すぅぷ」 「熱いから気をつけて」  エルは一度頷いて、スープに息を吹きかけて少し冷ましたあと、一口飲んでみたのだが── 「っ!ん、あちっ!」 「水を」 「あち! あち!」  目をバッテンにして熱がっている。  エルは猫舌だったか──アザールは苦笑しながら、グラスの水をもう一杯用意してやった。

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