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第18話

 その日の夜。  寝巻きに身を包み、アザールの寝所にやってきたエル。  彼はベッドの上で本を読んでいたのだが、エルが来るとそれを閉じて「おいで」と掛布を捲り招き入れてくれた。 「寒くはないか?」 「大丈夫」 「もし寒くなったり、逆に暑くなったなら、遠慮せずに言うんだぞ」 「うん!」  モソモソと寝転がり、アザールの方を向けば、彼は穏やかな顔をしてあた。  エルは手を伸ばして、彼の頬を撫でる。唐突のことに僅かに身を震わせたアザールは、しかし拒絶することなく、静かにエルを見つめる。 「アザール」 「……」 「アザールは、あたたかいね」 「そうか?」 「うん。なんだか、ポカポカ、するよ」 「眠れそうか?」 「ん……ギュッて、してほしい」  エルにそう言われ、アザールはドキッとしながら、そっと小さな体を抱きしめた。  何度かした事のある抱擁だが、今は少し緊張する。  目が合うと、エルは少し恥ずかしそうに目を伏せて、それが愛おしくて、つい、額に口付けを落としていた。 「ぁ……なあに……?」 「……愛しくて、つい」 「いとしい……?」 「好きってことだ。お前のことが大切なんだよ」 「好きで、大切……? あ、じゃあ、僕もする!」  同じように額にキスをされ、アザールはふいに微笑んだ。  くすぐったい様な、照れくさいような、そんな気持ちになる。 「こうして、誰かと寝るの、嬉しい」 「嬉しい?」 「うん。……ずっと、一人ぼっちだった、から……」 「……」  村で迫害され、幼い頃から一人で生きてきたエルにとっては、こうして抱きしめられながら眠った記憶が無いのだ。  胸がちくりと痛む。アザールはそれに気が付かないふりをして、優しくエルの頭を撫でた。 「これからはいつでも、お前が望むなら、一緒に眠ろう」 「……ほんとぉ?」 「本当。朝までずっと一緒だ」 「!」  エルの表情がほんわりと柔らかい笑顔に変わる。  胸に顔を埋めた子供は、そこでぐりぐりと体を寄せる。  そして少しすれば、胸もとから規則正しい呼吸音が聞こえてきた。どうやら、眠ったらしい。  アザールは小さく息を吐く。  何も知らない無垢な子供だ。そんな彼にいつか、この愛情を伝えなければならない。  一度守ると決めたものを、離すつもりは毛頭ない。  例えエルが嫌がったとしても、離してあげられない。  アザールはそれほどまでにエルを好いている。  だからこそ、安易に手を出しはしないし、その心を傷つけるようなこともしない。    ──しかし。  従者の中に、エルを侮辱するような言葉を吐いた者がいたらしい。  それはこの屋敷で働くものとして、あってはならないことである。  主の番たる者を侮辱するということはつまり、主を侮辱することと同じ。  まずは、そのものを見つけ出し追放しなければ。    そして──今、国で起こっている反感を持った人間たちのことも、正さなければならない。  アザールは獣王軍の将軍だ。  本来ならば、こうしてのんびりエルと過ごすことは難しい。  だが、副将軍のカイランが、嫌々ながらもアザールの仕事を引き受けてくれている。  彼には、きちんと礼を言わなければならない。  まあ、しかし。  今は、愛しい子の寝顔を眺めて、癒されよう。  明日の天気はおそらく晴れ。  今日と変わらず、楽しく過ごしてくれるように祈りながら、アザールも静かに目を閉じた。

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