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第24話

 食事の時間だと迎えに来たアザールと手を繋ぎ、食堂へと向かった。  いつもより暗い顔をしている彼に、エルはちょっとだけ緊張してしまう。  ……怒ってはいないみたいだけれど、悲しいのかな。何かあったのかな。何をしたら、喜んでくれるかな。  そんなことを考えながら歩いていると、あっという間に食堂につき、朝と同じようにアザールの隣に座った。 「アザール」 「ああ、なんだ」 「……怪我、した?」 「怪我? いや……」 「じゃあ……悲しいこと、あった?」  ジッと見つめれば、彼は困ったように微笑んで、エルの頭を優しく撫でる。 「何も無いさ。強いていえば──……」 「?」  何かを言おうとした彼が、口を閉じて小さく首を振った。  気になるけれど、言いたくないのを無理矢理言わせるのは良くない。そしてそんなことをしてしまっては嫌われるかもしれない。  エルは『大丈夫だよ』の意味を込めて、ちょっとぎこちなく、それでも精一杯、ニッと笑ってみせ、手を伸ばしてフォークを掴んだ。 「僕ね、お野菜、好き」 「……ああ。いい子だ。沢山食べて」 「アザールは? お野菜、好き?」 「俺は肉がいい」  それを聞いたエルは、お肉を一切れフォークで刺すと、それをアザールの口元に運んだ。  アザールはキョトンとした顔でそれを見つめ、一瞬だけ目を見開いたあと、照れくさそうに口を開けた。 「ん、うまい」 「へへ。美味しいね」 「ありがとう」 「どういたしまして!」  アザールの顔に柔らかい表情が戻った。  エルはそれにほっとして、食事を続ける。  沢山食べて、ぽんぽこになったお腹をアザールに見せれば、彼はふふっと笑う。  悲しそうな顔はもう見えなかった。    ***  食事を終えると、アザールは「では、行くか」と立ち上がった。  キョトンとしながら彼を見上げれば、苦笑してこちらを見下ろしている。 「忘れたか?」 「……。! あ、お風呂!」 「ああ。一緒に行こう」 「ぁ……あ、うん。待ってね、あのね……」  エルはモジモジしながら俯いて、キュッと唇を引き結んだ。  どうしよう。背中にある文様について、彼には何も伝えていない。  初めて目にした彼が、気味悪がって嫌がらないか。どんな反応をされるのかがわからなくて、怖い。 「エル?」 「ぁ……あのぅ……」 「……。──皆、下がれ」 「!」  突如、凛とした声が食堂に響いた。  決して大きい声では無かったのだが、エルは驚いてビクンっと体を震わせる。  二人きりになった食堂で、エルはしかし俯いたまま、膝の上に置いた手を握りしめていた。 「何か、話したいことがあるのか?」 「……うん」 「話すかどうか、悩んでる?」 「うん……」 「それは、何故?」 「アザールに、……嫌いって、言われるかも、しれないから」 「……」    そっと椅子に座り直したアザールは、俯くばかりの子供に向かい、優しく名前を呼んだ。  それはスッと、エルの耳に柔らかく入ってきて、導かれるようにして顔を上げる。 「俺は、──エルのことが好きだ」 「!」 「誰よりも、好きだ。だから、何があってもお前を嫌うことはない」  突然の告白に、エルは目を大きく見開き、口をポカンと間抜けに開けたまま、アザールを見つめた。 「話したいことがあるなら、話してみればいい。例えばお前に死んでくれと言われても、俺はお前を嫌わない」 「そ、そんなこと、言わない!」 「そうか? なら余計に心配は要らない。それに、もし嫌いだと言われても、好きでいるぞ」 「それも、言わない! 僕も、アザールが好き!」 「はは、ありがとう」  柔く笑い、僅かにしっぽを振る彼に、エルは再び口を閉ざすと、少し躊躇いながら、そして遂に意を決して、アザールに隠していたことを打ち明けることにした。

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