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第35話 ※

 アザールはその日、夕食前に帰ってきた。  顔色は僅かに厳しくて、エルは少し緊張しながら一緒に食事をとり、お風呂に入って、同じベッドに横になる。  スリスリと大きな体に近づけば、彼はふっと微笑んでエルを抱きしめた。  暖かくて、早くも目がとろんとしてしまう。 「エル」 「ん……なあに……?」  そんなエルに静かに話しかけたアザールは、眉を八の字に下げた。 「……俺は明後日から、遠征に行かねばならなくなった」 「ぁ……明後日……?」 「ああ。急ぐよう、言われてしまってな。今日のうちに準備は終わらせた。明日は一日屋敷でゆっくりと過ごすが、明後日からは家を空ける」 「で、でも……」  突然のことで、眠気も吹っ飛び体を起こしたエルは、寝転ぶアザールの胸に手をついて顔を近づける。 「やだ。寂しいよ」 「……すまない」 「だって、いきなりは、ビックリするもん」 「そうだな」 「僕……アザールと、一緒がいいのに」  大きな目を潤ませるエルに、アザールは罪悪感が募っていく。  決して行きたいわけではない。だから余計に後ろ髪を引かれるような気持ちになった。 「明日は、何をしようか。エルの好きなことをしよう」 「ぅ……アザールと、一緒がいい……」 「!」  遂にポロッと涙を零したエルに、アザールは飛び起きてその身体を抱きしめた。  愛しい子。番を約束した子。  そんな彼が泣いていると、胸の奥がざわざわとして、落ち着かない。 「エル」 「ふ……アザール、」  濡れた目に至近距離で見つめられ、アザールも同じように見つめ返す。  吸い込まれるような金色の瞳は、どんな宝石よりも美しい。  次第に二人の距離が短くなる。 「エル……、すまない。少しだけ……こうしていたい」  低く囁かれた声に、何かを訴えるような響きが混じっていた。  それが何かはわからなかったけれど、エルは目を閉じて頷いて──。  鼻先がチョンと触れ合う。  前にもしたことのあるそれにエルはドキッとしたのだが、今日はそれだけではなかった。  まだ近づいてくる顔。思わずギュッと目を閉じると、唇にふにっと柔らかい感覚。 「ん……っ、アザール……?」 「……」 「んもっ、ん、ぅ……!」  再び唇同士が重なって、思わず目を見開いたエルは、アザールの肩に手を置くと、顔を離そうとして唇に噛み付かれた。 「んぎっ、ぃ、ん、ふぁ……あ、アザールぅ……!」  僅かな痛みに思わず口を開けると、今度は口の中に、熱を帯びた舌が滑り込んできて、エルは目を白黒させる。  何が起きているのか分からない。どうすればいいのかも、何もかも。  けれど口内を蹂躙され、舌が絡み合うのが段々と気持ちよくなってくる。  上手く呼吸ができずに、頭がふんわりとし始めて、そして──。 「ん……エル……。……エル?」 「は……はぁ……」  ようやく唇が離れた時には、エルはくったりと脱力し、アザールにもたれかかる。  にじんだ涙が、そっと頬を伝った。  ──初めての、くちづけ。  心臓がまだ、どくどくと鳴っている。  何もかもが、わからないまま。  しかし、確かに心地よく、気持ちよかったそれは、嫌ではなかった。  それどころか、体が変に反応してしまい── 「……エル、それは……」 「ゃ、みないで……」  エルの熱が僅かに主張している。  咄嗟に両手で隠したけれど、ムズムズして膝を擦り合わせ背中を丸めた。 「……エル、すまない。それは自分で処理できそうか?」 「ん、しょりって、何っ?」 「……精通はしてるのか……?」 「……?」  涙目でアザールを見上げたエルは、ふにゃっと泣きそうな顔をしてアザールの胸にトンと額をくっつける。 「ムズムズする……これ、やだ……」 「っ、」 「アザール、これ、とって」 「!」  アザールは静かに目を閉じて深く息を吐いた。  きっとこのままムズムズした状態でエルはねむれないだろう。  それならば、こうなった時はどうすればいいのかを教えて上げるのが、今後のためにもなるはず。  暫し葛藤した結果、アザールは一度深呼吸をしてした。   「……エル、それは処理をすれば治まるんだ」 「しょり……?」 「ああ。そこを触って、精液が出たら、楽になる」 「なぁに、それ、どうするの……? わかんないよ、アザール、やって……?」  もじもじするエル。  そんな彼の下履に触れたアザールは、エルに一度謝ってから、その中に手を入れた。 「!?」 「痛いことはしない。力を抜いて」 「ぁ、アザール、っ」 「大丈夫。俺にもたれかかって……そうだ。いい子。そのまま、気持ちいいことだけに集中して」  大きな手がそこに触れる。  エルの体はビクッと大きく震えて、それでも彼は抵抗することはなかった。  くちゅくちゅと優しく弄ってやれば、そのうち涎を垂らし出したそこは、卑猥な音を立て始める。 「はぅっ、ん、ぁ、アザールぅ」 「ああ、上手だ。何か出そうになったら、我慢せずに出しなさい」 「あっ、ぁ、くしゅくしゅ、気持ちいい……っ」  エルの腰が勝手に動く。  気持ちよさに揺れるそれは全くの無意識だ。   「あっ、ンぁ、あ、何か、出るぅ……!」 「ああ、いいぞ」  そうしてあっという間に大きな手の中に射精したエルは、くったりとアザールにもたれかかったかと思うと、初めての快感に驚いたのか、意識を飛ばしてしまっていた。  そんなエルをベッドに寝かせ、アザールは自身の下肢に目を向ける。 「……」  こっそりとベッドを抜けて、手洗いへ。  今度は自分のそれを慰めて、冷静になった頭で反省をしてからエルの隣に戻ったのだった。

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