35 / 100
第35話 ※
アザールはその日、夕食前に帰ってきた。
顔色は僅かに厳しくて、エルは少し緊張しながら一緒に食事をとり、お風呂に入って、同じベッドに横になる。
スリスリと大きな体に近づけば、彼はふっと微笑んでエルを抱きしめた。
暖かくて、早くも目がとろんとしてしまう。
「エル」
「ん……なあに……?」
そんなエルに静かに話しかけたアザールは、眉を八の字に下げた。
「……俺は明後日から、遠征に行かねばならなくなった」
「ぁ……明後日……?」
「ああ。急ぐよう、言われてしまってな。今日のうちに準備は終わらせた。明日は一日屋敷でゆっくりと過ごすが、明後日からは家を空ける」
「で、でも……」
突然のことで、眠気も吹っ飛び体を起こしたエルは、寝転ぶアザールの胸に手をついて顔を近づける。
「やだ。寂しいよ」
「……すまない」
「だって、いきなりは、ビックリするもん」
「そうだな」
「僕……アザールと、一緒がいいのに」
大きな目を潤ませるエルに、アザールは罪悪感が募っていく。
決して行きたいわけではない。だから余計に後ろ髪を引かれるような気持ちになった。
「明日は、何をしようか。エルの好きなことをしよう」
「ぅ……アザールと、一緒がいい……」
「!」
遂にポロッと涙を零したエルに、アザールは飛び起きてその身体を抱きしめた。
愛しい子。番を約束した子。
そんな彼が泣いていると、胸の奥がざわざわとして、落ち着かない。
「エル」
「ふ……アザール、」
濡れた目に至近距離で見つめられ、アザールも同じように見つめ返す。
吸い込まれるような金色の瞳は、どんな宝石よりも美しい。
次第に二人の距離が短くなる。
「エル……、すまない。少しだけ……こうしていたい」
低く囁かれた声に、何かを訴えるような響きが混じっていた。
それが何かはわからなかったけれど、エルは目を閉じて頷いて──。
鼻先がチョンと触れ合う。
前にもしたことのあるそれにエルはドキッとしたのだが、今日はそれだけではなかった。
まだ近づいてくる顔。思わずギュッと目を閉じると、唇にふにっと柔らかい感覚。
「ん……っ、アザール……?」
「……」
「んもっ、ん、ぅ……!」
再び唇同士が重なって、思わず目を見開いたエルは、アザールの肩に手を置くと、顔を離そうとして唇に噛み付かれた。
「んぎっ、ぃ、ん、ふぁ……あ、アザールぅ……!」
僅かな痛みに思わず口を開けると、今度は口の中に、熱を帯びた舌が滑り込んできて、エルは目を白黒させる。
何が起きているのか分からない。どうすればいいのかも、何もかも。
けれど口内を蹂躙され、舌が絡み合うのが段々と気持ちよくなってくる。
上手く呼吸ができずに、頭がふんわりとし始めて、そして──。
「ん……エル……。……エル?」
「は……はぁ……」
ようやく唇が離れた時には、エルはくったりと脱力し、アザールにもたれかかる。
にじんだ涙が、そっと頬を伝った。
──初めての、くちづけ。
心臓がまだ、どくどくと鳴っている。
何もかもが、わからないまま。
しかし、確かに心地よく、気持ちよかったそれは、嫌ではなかった。
それどころか、体が変に反応してしまい──
「……エル、それは……」
「ゃ、みないで……」
エルの熱が僅かに主張している。
咄嗟に両手で隠したけれど、ムズムズして膝を擦り合わせ背中を丸めた。
「……エル、すまない。それは自分で処理できそうか?」
「ん、しょりって、何っ?」
「……精通はしてるのか……?」
「……?」
涙目でアザールを見上げたエルは、ふにゃっと泣きそうな顔をしてアザールの胸にトンと額をくっつける。
「ムズムズする……これ、やだ……」
「っ、」
「アザール、これ、とって」
「!」
アザールは静かに目を閉じて深く息を吐いた。
きっとこのままムズムズした状態でエルはねむれないだろう。
それならば、こうなった時はどうすればいいのかを教えて上げるのが、今後のためにもなるはず。
暫し葛藤した結果、アザールは一度深呼吸をしてした。
「……エル、それは処理をすれば治まるんだ」
「しょり……?」
「ああ。そこを触って、精液が出たら、楽になる」
「なぁに、それ、どうするの……? わかんないよ、アザール、やって……?」
もじもじするエル。
そんな彼の下履に触れたアザールは、エルに一度謝ってから、その中に手を入れた。
「!?」
「痛いことはしない。力を抜いて」
「ぁ、アザール、っ」
「大丈夫。俺にもたれかかって……そうだ。いい子。そのまま、気持ちいいことだけに集中して」
大きな手がそこに触れる。
エルの体はビクッと大きく震えて、それでも彼は抵抗することはなかった。
くちゅくちゅと優しく弄ってやれば、そのうち涎を垂らし出したそこは、卑猥な音を立て始める。
「はぅっ、ん、ぁ、アザールぅ」
「ああ、上手だ。何か出そうになったら、我慢せずに出しなさい」
「あっ、ぁ、くしゅくしゅ、気持ちいい……っ」
エルの腰が勝手に動く。
気持ちよさに揺れるそれは全くの無意識だ。
「あっ、ンぁ、あ、何か、出るぅ……!」
「ああ、いいぞ」
そうしてあっという間に大きな手の中に射精したエルは、くったりとアザールにもたれかかったかと思うと、初めての快感に驚いたのか、意識を飛ばしてしまっていた。
そんなエルをベッドに寝かせ、アザールは自身の下肢に目を向ける。
「……」
こっそりとベッドを抜けて、手洗いへ。
今度は自分のそれを慰めて、冷静になった頭で反省をしてからエルの隣に戻ったのだった。
ともだちにシェアしよう!

