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第57話 ※

 そうして中庭で話している時、バタバタと足音が近づき、レイヴンが息を切らしながら現れた。 「アザール様っ!」  大きな声に、全員の視線が集まる。 「……どうした」 「すぐにお戻りを。エル様が目を覚まされ、アザール様を──泣いて、お呼びです……!」  ザワッと空気が揺れる。  アザールの瞳が鋭く光ると、すぐにカイランへと視線を向けた。 「少し外す」 「ああ」  アザールは踵を返し、地を蹴るようにして駆け出した。  その背に続こうとしたレイヴンの肩を、カイランが無言でつかんだ。 「待て。……エルが落ち着くまでは、ずっとそばにいるよう将軍に伝えておけ」 「は、はいっ!」  レイヴンが駆け足で戻っていくのを見送りながら、カイランはふと顔を上げる。 「で……実際どうなんだ。エルの具合は」  レイヴンは小さく息を整えると、カイランたちに向き直って言った。 「……熱はまだ少しありますが、汗も引いてきています。意識もしっかりしていて、お水も飲まれました」 「そうか……」  カイランがほっと息をつくと、周囲の兵士たちも小さく頷いた。 「ただ……」  レイヴンは言いよどんだあと、少し恥ずかしそうに口元を押さえる。 「……アザール様が、居ないとわかると、泣き始めてしまって……」  その言葉に、隊の中から小さな「うっ……」という呻き声が漏れる。 「かわいすぎる……」 「そりゃあ、放っておけるわけがねえよな……」  カイランは苦笑しつつ頷いた。  番が辛そうにしている姿を見るのは、まるで自分の事のようにつらく感じる。  ──将軍も、しばらくは離れられないだろうな  去っていったレイヴンの後姿を眺めながら、小さく肩を落とした。 ◇  シクシクと静かに泣く声が聞こえた。  アザールは部屋に入ってすぐ、涙を零すエルを見て、咄嗟に駆け寄りその身体を抱きしめた。  まだ、体が熱い。  擦り寄ってくるエルの頭を撫でながら、怒りを抑えていく。 「アザール、な、んか……体、熱い……」 「ああ。きっともうすぐで治まる」 「……ん、これ、やだぁ」  小さな手に手を取られ、導かれたのは硬く主張をしている中心だった。  アザールはハッとして、エルの顔を凝視する。  まさか、この熱は──催淫効果のあるものを摂取したのか……? 「これ、やだ……アザールっ」 「っ、」  ふーっと深く息を吐き、エルの肩を掴む。 「エル、俺に触られるのは、怖くないか? その……前にも触れたことがあっただろう。あの時も、嫌じゃなかったのか……?」  あの時は眠ってしまったし、翌朝は恥ずかしいから秘密だと言っていた。  それに、王に脱がされそうになったことから、怖い思いをして誰にも触られたくないのではないのかと、不安になる。  エルは少しだけ瞬きをして、それから小さく首を振った。 「……こわく、ない……。アザールは、ぜんぶ……だいじょうぶ……大好きだよ」  震える手が、そっとアザールの腕に触れる。  そのぬくもりに、思わず喉が詰まりそうになった。 「エル……」 「お願い、アザール」  熱に浮かされた瞳は潤んでいる。  それをエルが本当に望んでいるのなら──。  エルの背中を自身の胸に凭れさせ、そっと下履に触れる。  手を入れて主張するそれに触れれば、エルは小さく甘い声を漏らし、僅かに身体を震わせた。 「怖くなったら言うんだぞ」 「っん、は……あぅ……きもちいぃ……」 「っ……」  顔を上げたエルは、突然頬にキスをしてきて、ぶわわっと尻尾が膨らんだ。  奥歯をギリッと噛み締め、これ以上は何もしないと心に決めて手を動かす。 「あ、ぁ……アザールぅ、ぎゅって、して……もっと……」 「っ、エル……」 「あぅ、っ、……ん、ぁ……で、ちゃう、アザール、でちゃう……っ」  背中を丸めたエルはビクッと大きく身体を震わせた。  手の中に熱い精が放たれ、エルの荒くなった呼吸と自分のそれとが重なる。  手を拭いて、エルをベッドに寝かせれば、少しスッキリしたのか、さっきよりかは表情が落ち着いて見えた。 「アザール……好き……」 「ああ。俺もだ。愛してる」 「……あいしてる……ふふ、素敵ね」 「少し眠りなさい。俺はここにいる」 「……離れちゃ、やだよ」 「離れないよ」  ちょんっと鼻同士をくっつける。  嬉しそうにくふふと笑ったエルに、アザールも柔い笑みを返した。

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