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第62話 ※
それから数日。雪の降る夜。
ベッドの上に二人はいた。
エルはそっとアザールの胸に身を寄せていて、数日前よりも更に白く浮かぶ文様は生きているかのようで、エルはここ最近体に異変を感じていた。
「……アザール」
「ん?」
「……あのね……、なんだか、体が変なの。最近ずっと……ここが、熱い」
小さな手が、自分の下腹に添えられる。アザールはその手を包むように握ると、息を深く吐いた。
「……文様が教えてるんだ。もう、身体が準備を始めてる。……求めてるって、そういうことだ」
「……うん。多分、欲しいって、アザールと……したいって、思っちゃう。でも……」
エルは唇を噛んで、もじもじと視線を泳がせた。
「……こわい、かも」
震える声に、アザールの心が締めつけられる。
自分とは体格も違う。何も知らないエルが、これから経験するものが、優しいものばかりとは限らない。
「エルが怖かったら、やめる。俺は……お前が嫌がることをしたくない。ただ、笑っていてくれたらそれでいい」
その言葉に、エルは小さく首を振った。
「っアザールと、繋がりたいの。……好きだから」
そう言って、ほんの少しだけ身を乗り出したエルが、唇を重ねてきた。
幼いキスだった。かすかに震えているそれが愛らしくて、アザールは、そっとその体を抱きしめた。毛布の中、エルの肌に触れるたび、その細さに切なくなる。
胸元を、ゆっくりと外す。エルの肌が露になる。小さくて、あたたかくて、震えている。
「……恥ずかしい……」
「大丈夫。俺だけが見る、お前の姿だ」
愛撫は丁寧だった。肩、腕、指先――時間をかけて触れていく。
しかし、脚の間に手が伸びたとき、エルの身体がビクッと跳ねた。
「っ……そこ、ダメ、なんか……へん……っ」
「大丈夫、痛くしない。怖くなったら、すぐにやめる。言ってくれ」
言いながら、ゆっくりと指を這わせる。
まだ濡れていない、けれど、奥のほうが微かに熱を帯びている。
「っ、ふぁ……や、あ……アザール……っ」
声が漏れる。細い体がびくびくと震えるたび、アザールの理性は薄れていく。
──急いではいけない。傷つけては、いけない。
ゆっくりと、口づけを落としながら、指をいれたそこは狭い。
入るのだろうか、こんなに小さいのに。
内壁を撫でれば次第に中が濡れてきた。文様のおかげか、エルも快感を拾っている。
プクっと膨れた痼を撫でると、一際甘い声を漏らして中もうねうねと動く。
時間をかけてたっぷりと解したそこに、アザールは自身の熱を宛てがった。
「エル、入れるよ。痛いかもしれない……無理はしない。言ってくれ」
「……うん」
指で丁寧にほぐしていたとはいえ、実際に挿れるとなると、やはりエルの体はきゅっと硬くなる。
「──っ、あ、ああ……っ、や、まって……っ」
潤んだ目でこちらを見上げながら、エルが弱々しく抗う。
それでも、逃げない。怖くても、手を伸ばしてくる。
健気なその姿に、アザールは堪らなくなって、額を重ねた。
「……すまない。痛むか……?」
「っうぅ……でも、やめちゃ、やだぁ……っ」
「ああ。あと、もう少しで、奥まで届く……ちゃんと、繋がれる」
エルの眉が切なげに歪められる。
アザールの背中にまわした手の爪を、痛みをこらえるために立ててしまう。
「ありがとう。……もうすぐだ」
ずぷ、と音を立てて、アザールがエルの奥へと沈み込んだ。
狭くて柔らかい、けれどまだ受け入れる準備が完全ではないその中に、ぐっと圧をかけて深く押し入る。
「……っひ……、ぁあ……っ、アザール……っ、こわ……い……っ」
震える声が、耳元でかすれる。
エルの目元には涙が浮かび、細い指がシーツをきつく掴んでいた。
「大丈夫、エル……ゆっくり、動かない。今は、ただ繋がってるだけだ」
アザールは奥まで入り切ったまま動かず、ただぎゅっとその身体を包み込む。
エルの中はぎゅうぎゅうで、今にも弾き返されそうなほど狭かった。
でも、少しずつ、少しずつ──体が慣れていく。
「ん……ぁ、っ、うう……っ」
すすり泣きながらも、エルは逃げなかった。
アザールの胸に顔を押しつけ、恐怖と羞恥を抱えたまま、必死に受け止めている。
「……すまない、でも……本当に綺麗だ。エルの中、あたたかい……」
言葉を紡ぎながら、アザールはエルの髪に口づけた。
その優しさに、エルの頬を一筋の涙が伝う。
「……アザール……好き、だから……頑張る……っ」
その言葉に、アザールの奥底に何かが灯る。
「……少しだけ、動くぞ」
「……うん……」
腰をわずかに引き、また押し戻す。
ぐちゅ、と淫靡な音が小さく響き、エルの中がまたぎゅっと締まる。
それでも、最初よりも少しだけ──深くまで受け入れられた気がした。
「っ、ふ、ぅ……アザール……、あついの……なか、ぐぅってきて、変になっちゃう……っ」
愛おしすぎて、涙が出そうだった。
まだ足りない。もっと抱きしめたくなる。もっと奥へ、奥へと刻みつけたくなる。
アザールは腰を深く沈め、エルの奥をゆっくりと、けれどしっかりと貫いていく。
「エル……もう、限界だ……中に……出す……」
「……うん……来て……」
その瞬間、アザールの腰が深く打ち込まれ、ビクンと震える。
熱いものが、どぷりと──たっぷりと、奥に注ぎ込まれる感覚。
「っ、んぅっ……!」
エルは驚いたように目を見開き、けれどどこか安堵するように、アザールにしがみついた。
とくん、とくんと鼓動に合わせて、注がれる精のあたたかさ。
これが、『番になる』ということ。
「……アザール……ぼく、……番、なれた……?」
「ああ。今、たしかに……番になったんだ」
そう答えながら、アザールは、泣き顔のまま笑うエルを抱きしめた。
繋がった奥の奥で、じんわりと熱が灯る。
この体温。この涙。この声。
――誰よりも大切な、たった一人の番。
「……アザール……すき、だよ……」
震える声が耳に落ちるたびに、アザールの胸に愛が染みこんでいく。
こうして、ふたりは番となった。
人と獣人。異なる種が、確かに、心で結ばれた瞬間だった。
第一章 完
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