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第68話

「きっとね、前も──深く繋がってたんだと思うの。アザールのこと、大好きで、離れたくなかったから」 「……」 「でもね、僕が何も知らなかったから。知らないままで、怖くて……だから、できなかったんだと思う。──でも、今なら……わかるよ」 「エル……」 「僕はね、アザールとの子供……できたら、嬉しいなって思うんだ」  にっと微笑むエルを、アザールは堪らず引き寄せて、ぎゅっと抱きしめた。  驚いたように目を瞬かせたエルだったが、アザールの尻尾がブンブンと嬉しそうに揺れているのを見て、思わずくすくすと笑みがこぼれる。 「……俺もだ。エルが望んでくれるなら──お前との子が、欲しい」 「ん……えへへ、なんだか、恥ずかしいねぇ」 「そうだな。──って、こら、尻尾を掴むな」 「ぁ、ごめんね。だって、すっごく可愛くて……つい」  感情をバカ正直に表現してしまう尻尾。  アザールは恥ずかしそうに視線を逸らしたのだが、エルはそれすらも可愛いと思って、ムギュっと彼の首に腕を回して密着する。  ちゅっとキスをすれば、おさまりかけた尻尾の揺れが再び始まって、その愛おしさに胸がいっぱいになった。 ◇  執務室に響いたノック音で、二人の時間は一旦終了した。  シュエットが夕食の時間だと呼びに来て、二人は食堂に向かう。  和やかな雰囲気に、シュエットはほんのりと微笑んでいた。  よかった。どうやら上手く話せたようだ、と思って。 「エル、体を冷やしてはいけないぞ。子供が宿ったら尚更だ」 「うん。でも今も寒くないからね、大丈夫だよ」 「そうか……? 寒い時は直ぐに言いなさい」 「ありがとう」  そうして食堂に着くと、いつものようにアザールはエルに食事を与え、エルは何も言わずにただ受け入れる。  美味しくて蕩けそうになる頬。そこを撫でられてヘラっと力なく微笑む。  すると突然アザールが顔を寄せてきて、額にチュッとキスをされた。 「アザーゥ?」 「口にものが入っている時は話さない」 「む……」  エルは少し眉を寄せると、ムシャムシャ食べて飲み込み、アザールの手をペチンと軽く叩いた。 「食べてる時に、ちゅってしたら、気になるでしょ」 「……すまない。愛しくて」  シュンとアザールの耳が伏せられる。  可愛さに胸がキュンとした。 「……もうやめてね」 「……身体が言うことをきかないかもしれん」 「アザールぅ……」 「努力はする」  エルはフスーッと力を抜いて背もたれにもたれ掛かった。 「エル、さっきは言わなかったが──」  食事の手を止めた彼が、静かに話しかけてくる。彼の顔を覗き込むように見れば、少しだけ難しい顔をしていた。 「……文献は、文献だ。あれに書いていないことだって多くあるだろう。他に何かが起こる可能性もある。もしそういったことがあっても、一緒に乗り越えよう」 「……うん。ごめんね、たくさん心配なこと増えちゃうかもしれないけれど、」  その声はどこか不安げで、少し申し訳なさそうだった。  アザールは鼻先同士をチョンっとくっ付けて、ふっと微笑んだ。  優しく撫でられた頭。  胸のあたりがポカポカとあたたかかった。

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