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第69話 ※

 湯浴みの時間になり、二人は同じ湯に浸かっていた。 「ひゃっ……!」  のんびりとお湯の心地よさに浸っていたエルは、不意に背中をスッとなぞられ、驚いて肩をすくめる。 「な、なに……くすぐったいよ……」  アザールの指先はそのまま、エルの背中に浮かぶ文様をゆっくりとなぞった。擽ったさに小さく震える肩に、そっと唇が触れる。 「……エル」  アザールの低く柔らかな声が、湯気に混じって耳に届いた。 「このまま……少し、触れてもいいか?」 「ふ、触れる……って……?」  不意に意識してしまい、エルの頬がほんのりと染まる。 「ああ。少しだけ……お前が嫌じゃなければ」  湯気に頬を熱く染めながら、エルは不安げに問い返す。声はかすかに震えていた。  けれど、アザールの手は優しく、どこまでも穏やかで。  熱を帯びた掌が背を包むたび、くすぐったいような、安心するような感覚が胸に広がる。 「……嫌なら、やめる」  低くささやくような声音は、どこまでも誠実だった。  強引さのかけらもない。ただただ、そばにいたいという想いだけが伝わってくる。  エルは、しばらく何も言えずにいた。  でも──触って、欲しいかも。  胸の奥がじんわりとあたたかくなって、ぎゅ、と拳を小さく握る。 「……うん。……少しだけ、なら」  消え入りそうな声で返事をしながら、頷いた。  その言葉を聞いて、アザールの腕がそっとエルの細い肩を抱き寄せた。  ぬるい湯の中で、静かにふたりの肌が触れ合う。  鼓動の音が、湯の中にやさしく溶けていった。 「ありがとう、エル」  アザールが囁くように言いながら、そっとエルの髪に口づける。  エルは少しだけ目を閉じて、身を預けた。  背をなぞる指先が、ふたたび文様の上をゆっくり辿っていく。  まるでそのすべてを愛おしむように。  その手はいつの間にかお腹に回って、薄い腹を撫でる。  緊張して心臓がうるさく音をたて始めたけれど、決して嫌ではない。   「ん……!」  まだ反応のないそこに触れられ、突如走った甘い感覚に小さく声を漏らす。 「ぁ、アザール、お湯が汚れちゃう……っ」 「かまわない」 「っん、は……アザール、それ、先っぽ、だめ……っ」  お湯が揺れる音と、ふたりの吐息だけが、湯殿に静かに響いていた。  アザールの指先が、丁寧に、やさしくエルの身体をなぞる。  その動きは決して急がず、エルの反応をひとつひとつ拾うように、触れた場所から熱を溶かしていく。 「エル……暑くないか?」  唇が耳に触れるほど近く、低く甘い声が囁く。  エルは、うっすらと涙ぐんだ瞳で振り返り、小さく首を振った。 「だいじょうぶ……すごく、気持ちいいの……」  それは、無理をしている返事じゃなかった。  確かに、甘く痺れるような快感が、アザールの手のひらからゆっくりと伝わってきている。  それが怖くなくなったのは、彼を信じて、心を重ねてきた証だ。 「……エル」  小さな身体を、もっと深く抱き寄せる。  湯の中、奥まった秘所にアザールの手が触れる。エルの喉から自然と吐息が漏れた。 「ん……っ、ふ、ぅ……やだ……変な声、出ちゃう……」 「気にしなくていい。俺しか聞いていない。お前が感じてくれてるのが、嬉しいんだ」  アザールの声は熱を帯びていて、それでもあくまで優しい。  激しさや乱暴さは微塵もなく、すべてが、愛おしさからくるものだった。  ゆっくりと中に指が入り込んでくる。  何度か体を重ねたことで、知られているいい所を、彼の指先が撫でられると、声は抑えられずに零れていく。 「ひゃ……っあ、ん、アザール……!」 「痛みは?」 「っん、大丈夫……っ」  耳まで真っ赤になったエルが、震える声で返した。

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