93 / 100
第93話 ※
妊娠中、エルの文様は白く浮かび上がることもなく、今も静かに、穏やかに鎮まっている。
夜。ふたりで湯船に浸かりながら、エルはアザールの胸にもたれ、ふうっと息を吐いた。
「熱くないか?」
「ううん。ちょうどいいよ」
「それならよかった」
お腹に回されたアザールの手が、ゆっくりと、優しく膨らみを撫でる。
その温もりに、エルはくすりと微笑んだ。
「もうすぐだね」
「ああ。どうか、無事に生まれてきてほしい」
「うん。でもね、この子、とっても元気だよ。お腹の中で、よく蹴るの」
「この間、少しつらそうにしていたな」
「だからね、『ちょっとだけ力を弱めてね』って、お願いしてるの」
「きいてくれるのか?」
「……たまに、かな?」
ふたりの間に、小さな笑いが生まれる。
静かな夜。あたたかな湯と、大切な人の温もりに包まれながら、未来を想う時間が、ゆっくりと流れていく。
「獣人と人間の子どもって、どんな見た目になるのかなぁ」
「どうだろうな。俺は、どんな子でも嬉しいが」
「僕も。でも……アザールみたいにピコピコ動く耳があったら、可愛いね」
「……可愛いか?」
「うん! アザールの耳もね、食べちゃいたい時があるよ」
アザールは「それは初耳だな」と笑うと、エルの耳に軽くカプッと噛みつく。
「んっ!」
「俺も、エルの耳は小さくて可愛らしくて、好きだ」
「もぉ……。あ、でも僕、尻尾も好き! アザールの尻尾、ふわふわで、嬉しい時は揺れてて、すごく可愛いんだよ」
「……あまり見ないでくれ……」
制御できない尻尾の動きを指摘されるのは、少し恥ずかしい。
そんなアザールの背に手を伸ばし、エルはそっと、柔らかな尻尾に触れた。
「っ……」
「アザールのこと、好きだよ」
「……俺も、エルが好きだ。愛してる」
エルが振り返ると、アザールの唇がそっと重なった。
甘くて、深くて、優しいキス。
その感触に、胸がきゅっと締めつけられるような、とろけるような幸福が広がった。
「はぁ……アザール……」
「ん。……はは、少し、熱くなったか」
「ぅ……」
アザールの手が、エルのそこに当たった。
キスで熱を持ってしまったそれを隠そうと、膝を立てれば、チュッと鼻先にキスをされる。
「触るぞ」
「んっ!」
緩く隆起したそれを優しく刺激される。
エルはくぐもった声を漏らしながら、与えられる気持ちよさを素直に受け入れる。
「は……アザール、だめ、もう出ちゃう……」
「じゃあ、こっちに」
湯船から上がり、アザールに抱きしめられながら続けて刺激され、エルはビクッと小さく震えて達した。
最後に掛け湯をして室内に戻り、ぼんやりしているエルの体をアザールが整えていく。
「エル、運ぶから、おいで」
「うん」
服を着せられ、アザールに抱きかかえられる。
肌に伝わる温もりが心地よくて、まぶたがとろりと重くなる。
そのまま寝室へと運ばれ、ふかふかの寝具の上にそっと降ろされると、アザールは優しく毛布をかけてくれた。
「おやすみ、エル」
「……アザールも、ちゃんと寝てね」
優しいキスを額に受けながら、エルはそっと目を閉じた。
ともだちにシェアしよう!

