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二 この関係に名前はない

 浴槽に腰を掛け、下腹部を見下ろす。俺の脚の間に顔を埋め、泉が一心に性器をしゃぶっていた。赤く長い舌が、別の生き物みたいに貪る姿に、じくじくと胸の辺りが疼いてくる。こういう時、自分の身体が嫌いだ。熱と疼きを持て余して、暴力的な気持ちになる。 「――いずみ……っ」  小さく喘いだ声に、泉が視線を上げる。媚びるような顔を見降ろして、目を細める。  彼女に、口でして貰ったことはない。彼女は自分から動かなかったし、俺が誘わなければ誘ってくることはなかった。だから最後の頃はキスすらしなくなっていたし、自分から求めないくせに俺を非難するような目で見る彼女が、だんだん嫌いになっていた。 (そもそも、好きだったことがあったかも解らない)  料理が好きだと言ったから、今度食べさせてよと言った。そうしたら、本当に作って来て、なんとなく始まった。好意があった瞬間もあったような気がするけれど、泡みたいに消えてしまった。 「別のこと、考えてる」 「――だから、酒入ってんだよ……」 「良いけどね」  泉が喉の奥まで咥えるのに、ゾクリと背筋が粟立った。泉は、俺の征服欲を刺激する。風呂場に水音がやけに響いて、頭がクラクラした。  泉の立てる音を聴かないようにしながら、目は離せないでいる。貪欲に俺を呑み込む姿に、眼を細めた。 「――泉……っ」  ハァ、と息を吐いた俺に、泉は唇を性器から離した。白い粘液が糸になって、泉の唇から垂れている。 「――っ……」 「勃ったじゃん」  クソが。酒を言い訳にしたのに、身体はあっさり裏切ってくれる。泉は楽しそうな顔で、勃起した性器にコンドームを着けてきた。 「そこ危ないから、床座って」 「……床、冷てぇんだよな」 「文句言うな」  促され、しぶしぶ風呂場の床に座る。泉が俺の上に跨がった。咥えながら準備していたらしく、尻を浮かせて、先端をアナルに押し付ける。  端から見たら、滑稽な光景なのに、目が離せない。泉は小さく「んっ……」と声を漏らし、ぐぐっと先端を押し込んだ。 「―――っ、ん」  甘い声に、腰がざわめく。肉輪を拡げ、俺のを呑み込んでいく。 「っ……」  荒い呼吸を吐き出し、俺は泉の下腹部に視線をやった。顔を見るのが、怖い。自ら動きたくなるのを、拳を握って耐える。  泉は俺の肩に手を添えて、ゆっくりと腰を沈めた。 「あ―――っん!」  ぐぐ、と根元まで沈めて、泉が小さく震える。思わず、泉の顔を見た。快楽に蕩けた表情に、ゴクリと喉を鳴らす。  無意識に手を伸ばし、額に張りついた、泉の長い前髪を払ってやる。泉がフッと笑った。なにか言いたげな顔をしたが、結局何も言わずに、唇を重ね合わせる。舌を吸いながら、泉はゆっくりと動き始めた。  ちゅ、ちゅっ、と漏れる音が、下から聴こえるのか唇からするのかわからない。泉のナカは熱くて、柔らかい。半年振りのはずだが、ずっと使っていなかったわけではないのだろう。なんとなく苛つく。 (ああ、クソ……)  クソったれが。胸で毒づいて、俺の上で腰を振る泉を見る。普段、大学で見る親友とは、別人の顔をして、懸命に快感を拾う姿に眼を細める。  泉のナカは、酷く気持ちいい。吸い付くようであり、うねるようであり、男を悦ばせるために作り替えられた器官のようだった。  それでも、薄い膜越しの感触が、なんとなくもどかしい。  本当は、滅茶苦茶に突き上げたい。俺の精で、腹を膨らむほどに満たしてやりたい。そんな、暴力的な衝動に駆られる。 「…―――ナマでしてぇ」  つい、口から吐いた言葉に、泉がクッと笑った。 「今度な」  声の奥に、微かに笑いが滲んでいた。からかっているようでいて、本気にも聞こえる。少なくとも泉は、今日だけで終わらせる気はないようだ。  俺はそれに安堵したのか、嫌気がさしたのか、自分でも解らないまま、泉の鎖骨に顔を埋めた。

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