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四話 錆びついた想い
ベッドに寝転がっていると、シャワーから泉が戻って来た。まだ濡れた髪をタオルで拭きながら、ベッドの上に腰かける。ふわり、シャンプーの香りがした。
「大胡は明日って、何コマ目から?」
「――俺は二コマ目から」
「ふうん。おれ三コマ目だから、寝かせておいてよ」
「……良いけどよ」
髪を拭う項を、じっと見つめる。細く、長い首。その首に、錆びたチェーンが絡んでいる。古ぼけて安っぽいネックレスに、目を細めた。
「それ――まだやってんのかよ。ガキっぽい」
元々はピカピカの銀ったネックレスは、メッキだということを知らずに買ったせいで、今ではすっかりメッキが剥がれて錆びついてしまっている。もう大学生なのだから、ブランドのシルバーでもすれば良いのに、泉はそれを外したことがない。
「外せっていうなら、外すけど?」
挑発的に笑う泉に、俺は唇を結ぶ。
どうせ、外す気などないくせに。
俺は無言で、鼻を鳴らすと背を向けて横になる。泉が見ている気配がしたが、振り返らなかった。
『泉』
あの時も、ベッドの上だった。
泉の背後に回って、あの細い首に、銀色に光るチェーンを巻いた。あの頃は、何もかもが特別に思えて、その『儀式』さえ、神聖なもののように思えたのに。今では、ずっと外さないでいる泉のことが、少しだけ煩わしい。
泉が布団に潜りこんでくる気配に、少しだけ意識をそちらに向ける。泉も、俺に背を向けたまま、黙っていた。泉は、瞳を閉じているだろうか。それとも、まだ目を開いたまま、何かを待っているのだろうか。
俺は、泉になにも返せないし、何も渡せない。そして泉は、俺から何かを受け取ることを、きっと期待していない。
それなのに、未だにネックレスを外さずにいる泉に、どうしても苛立ちが募った。
(俺が文句を言える筋合い、ないのに)
泉が僅かに動く気配に、ドキリとする。シーツの擦れる音が、やけに緊張した。
二人の間の微妙な間が、埋められない隙間が、そのまま俺たちの関係のようだった。
身動ぎした瞬間、不意に、感覚などないはずなのに、服が触れ合ったのがわかった。まるで血が通っているかのように、服越しに熱が伝わる。泉の体温に、胃の辺りがモヤモヤと燻ぶった。
(別れたこと、黙ってたのにな)
また、自然と関係が再開してしまったことに、憂鬱な気分になる。
俺はきっと、泉を拒むことは出来ないし、泉はまた、俺をベッドに誘うのだろう。初めて抱いた時から、俺は何度も何度も、泉に溺れて。その度に、溺れ死んでしまうのではないかという錯覚に囚われる。
俺は長い時間、黙ったまま横になっていた。やがて、静かに泉の寝息が聞こえて来て、俺はホッとして瞳を閉じたのだった。
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