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五話 熱を持て余す

 開け放たれた窓の外から、喧騒が聞こえて来た。バスケットコートではバスケ部の連中が陽の射す中ボールを追いかけている。ボールの弾む音と、走る選手たちの声。ざわめきが無人の教室にこだまのように響いていた。 「……っ、ん」  吐息を吐き出して、泉の唇が離れた。それを追いかけて、再び唇を塞ぐ。腰に手を回すと、ピクンと身体が跳ねる。その様に、心臓がざわざわした。 「大胡……っ」  ハァ、と吐き出した息が、唇に掛かる。  関係が再燃してから、俺たちは逢わなかった隙間を埋めるように、濃密な時間を過ごした。昼夜を置かずにベッドの上で交わり合い、それでも足りずに、隙を見つけては肌を重ねる。以前過ごした時よりも、より深く、濃密に、互いの熱を貪った。 (マズい……止めねえと……)  理性では、止めないとダメだと解っていたのに、止められない。唇を貪り、服の上から肌を撫でる。泉の匂いが、より濃くなる。  遠くで、足音が響くのが聴こえた。誰も居ない空き教室とはいえ、いつ誰が入って来るかもわからない。泉が俺の首に腕を回す。 (このまま――)  このまま、深く交わりたい。そんな欲望が胸の内を締める。多分、泉は俺がそうしたら、嫌がったりはしない。セックスを覚えたての高校生の頃、欲望のままに泉を抱いていたあの頃は、本当に見境なくヤっていた。教室でもしたし、階段でもした。公園でも、海でも、トイレの中でも。二人になる瞬間があれば、それがスイッチだったかのように、馬鹿みたいに交わり合った。  腰を撫で、服の隙間に手を入れる。泉がピクンと肩を揺らす。舌を呑み込むほどに絡め合いながら、シャツを捲る。なめらかな白い肌に指先が触れた、その瞬間だった。  ピコン! とけたたましい音を立てるスマートフォンに、二人してビクリと肩を揺らす。急に熱が引いていく感覚に、思わず泉の胸を押した。泉はハァと吐息を吐き出して、恨めしそうに俺を睨む。俺はごまかす様に髪を掻き上げながら、尻のポケットに突っ込んでいたスマートフォンを開いた。 『この前借りた辞書返すけど、昼一緒しようぜー』  と、滝からのメッセージが入っている。 「滝だわ。昼一緒に食おうって」 「ああ――。おれも行く」  泉は呼吸を整えると、何事もなかったかのように乱れたシャツを直す。表情のあまり変わらない泉は、こうするとすっかり元の顔に戻ってしまって、色も熱も、失われてしまったように見えた。その様が、少しだけ癇に障る。 (お預け食らってんの、辛いくせに)  自分を棚に上げて、そんなことを考える。今、また触れたらきっと、泉は俺が欲しくて堪らなくなる。俺の視線に気づいて、泉が唇を曲げる。その様子が、何だかおかしくて鼻で笑う。 「なんだよ」 「別に」  泉は顔を顰めて、俺の背中をぎゅっと抓って来た。 「痛てぇよ」 「今日、部屋寄るから」 「バイトじゃなかった?」 「行くから」 「――はいはい」  何時になっても、多分俺の部屋に来るんだろう。俺に、抱かれるために。 (今夜は、寝かせて貰えないかもな)  薄暗い愉悦が、胸の中に湧くのを、見ないふりをした。

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