7 / 28

七話 受容

 大学に通う意義は、正直、就職前の繋ぎだとしか思っていない。大学卒業の証明のために毎日を過ごす無為な時間に、堪らなく退屈になる。  日本文学に興味などあるわけがなく、小説を義務以外で読んだ試しもない俺のような人間にとって、講義は苦痛そのものだ。  泉はアレで本も読むらしく、夏目だとか芥川だとか、そういう本をたまに持っているのを見かけた。 「ゼミ合宿って必須じゃないだろ。行くと思わなかったわ」 「暇だし」  藤木の言葉に、そう軽く返しながら構内を歩く。雑誌すら捲らない人間が、合宿に行って何になるのかとは、俺も思うが、暇だし、本を読むよりマシな気がした。 「どこに行くんだっけ?」 「確か、箱根じゃなかったか?」  滝と藤木が話すのを聞きながら、教室に向かう。教室のある建屋から出てきた女が、俺に気づいて笑みを浮かべた。 「あれ。今日授業だっけ?」 「よ。なんと授業なんだよ」 「アハ。ねぇ、あの子と別れたんでしょ? 一回遊んでおく?」 「いや、今のところ良いや。あとお前、俺の好みじゃないし」 「酷えー」  酷いと言いながら、女はカラカラ笑いながら去っていく。その様子に、藤木が呆れた顔をした。 「クズ過ぎ笑う。なんでこれがモテんだ、滝」 「顔だよ。諦めな」 「てか、お前の好みって、どんなよ」  滝が軽口を叩く。俺は一瞬間をおいて、眼を細めた。 「線が細くて、色白で。俺しか好きじゃないヤツ」 「うわ、傲慢」  藤木が呆れたように言うのを、俺は他人事のように聞いていた。    ◆   ◆   ◆ (なんか、クチん中、熱いな)  泉の前髪を掴んで、上を向かせる。泉は俺のを咥えたまま、視線だけこちらに向けた。  目元が赤い。濡れた瞳がおれを見て「なに」と訴える。 「いや。もう良いから、ケツ出せよ」 「んっ……、っとに……」  文句を言いながら、泉は唇を離した。肩からシャツがずり落ちて、白い肩が露になっていた。  空き教室でするのは、何度目か。最初は警戒していたのに、今じゃ当たり前のようにホテル代わりにしている。 「あ――ゴムねぇ……クソ。泉、持ってる?」 「……鞄にあるかも……。ナマでも良いよ……?」  窓枠に手をついて、泉が尻をあげる。 「……」  俺は無言で腰を掴み、ズボンをずらした。泉はすでにローションを仕込んでいる。下着越しに穴を探れば、僅かにシミが出来た。 「どういう気持ちでコレ、やってんの?」 「別に、大胡の考えてるままだよ」 「……じゃあ、エロいこと考えながらしてんだ」 「……そりゃあ、ね。ね、大胡……早く」  ハァ、と泉が息を吐く。  下着の股の部分だけをずらし、穴に先端を押し当てる。泉が歓喜に震えた。 「あっ――ん……」 「あ、ヤベ……」  泉のナカは、熱くて酷くうねっていた。自身を包み収縮する肉に、ぶわ、と血が集まる感覚がした。 「っ――、はっ……、泉っ……」 「ふ、んっ……あっ、あ……」 「クソ……。やっぱ、ナマはダメだ……。|好《よ》すぎる」  思わず漏らした感想に、泉が笑う。 「良いよ、おれは」 「……ど阿呆」  頭を軽く小突いて、黙らせる。  何が、『良いよ、おれは』だ。こっちが困るっての。  泉は、何も嫌がらない。  全部、受け入れる。 『良いよ。毎日、ナマでも。おれは』  その意味に、気づかない訳がない。 (ただでだえ、のめり込んでんのに)  自分が、嫌になる。  冷たくしても。  突き放しても。  想いを口にしなくても。  お前の気持ちを踏みにじっても。  お前が全部、受け入れるから。 (俺が、ゴミみたいになるんだろ)  泉のことを、突き放せない。 「あ、あっ、大胡っ……、大胡っ……」  甘い声に、頭がくらくらする。  教室には、無心で腰を振る間抜けな男と、嘲笑うように抱かれる男。どちらも、ただの獣だ。 (泉……、泉……、泉……っ)  この感情が、色褪せる日は来るんだろうか。  俺とお前は幼馴染みで。ただの親友なのに。  それで良かったのに。  どうして、受け入れたりしたんだよ。  

ともだちにシェアしよう!