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七話 受容
大学に通う意義は、正直、就職前の繋ぎだとしか思っていない。大学卒業の証明のために毎日を過ごす無為な時間に、堪らなく退屈になる。
日本文学に興味などあるわけがなく、小説を義務以外で読んだ試しもない俺のような人間にとって、講義は苦痛そのものだ。
泉はアレで本も読むらしく、夏目だとか芥川だとか、そういう本をたまに持っているのを見かけた。
「ゼミ合宿って必須じゃないだろ。行くと思わなかったわ」
「暇だし」
藤木の言葉に、そう軽く返しながら構内を歩く。雑誌すら捲らない人間が、合宿に行って何になるのかとは、俺も思うが、暇だし、本を読むよりマシな気がした。
「どこに行くんだっけ?」
「確か、箱根じゃなかったか?」
滝と藤木が話すのを聞きながら、教室に向かう。教室のある建屋から出てきた女が、俺に気づいて笑みを浮かべた。
「あれ。今日授業だっけ?」
「よ。なんと授業なんだよ」
「アハ。ねぇ、あの子と別れたんでしょ? 一回遊んでおく?」
「いや、今のところ良いや。あとお前、俺の好みじゃないし」
「酷えー」
酷いと言いながら、女はカラカラ笑いながら去っていく。その様子に、藤木が呆れた顔をした。
「クズ過ぎ笑う。なんでこれがモテんだ、滝」
「顔だよ。諦めな」
「てか、お前の好みって、どんなよ」
滝が軽口を叩く。俺は一瞬間をおいて、眼を細めた。
「線が細くて、色白で。俺しか好きじゃないヤツ」
「うわ、傲慢」
藤木が呆れたように言うのを、俺は他人事のように聞いていた。
◆ ◆ ◆
(なんか、クチん中、熱いな)
泉の前髪を掴んで、上を向かせる。泉は俺のを咥えたまま、視線だけこちらに向けた。
目元が赤い。濡れた瞳がおれを見て「なに」と訴える。
「いや。もう良いから、ケツ出せよ」
「んっ……、っとに……」
文句を言いながら、泉は唇を離した。肩からシャツがずり落ちて、白い肩が露になっていた。
空き教室でするのは、何度目か。最初は警戒していたのに、今じゃ当たり前のようにホテル代わりにしている。
「あ――ゴムねぇ……クソ。泉、持ってる?」
「……鞄にあるかも……。ナマでも良いよ……?」
窓枠に手をついて、泉が尻をあげる。
「……」
俺は無言で腰を掴み、ズボンをずらした。泉はすでにローションを仕込んでいる。下着越しに穴を探れば、僅かにシミが出来た。
「どういう気持ちでコレ、やってんの?」
「別に、大胡の考えてるままだよ」
「……じゃあ、エロいこと考えながらしてんだ」
「……そりゃあ、ね。ね、大胡……早く」
ハァ、と泉が息を吐く。
下着の股の部分だけをずらし、穴に先端を押し当てる。泉が歓喜に震えた。
「あっ――ん……」
「あ、ヤベ……」
泉のナカは、熱くて酷くうねっていた。自身を包み収縮する肉に、ぶわ、と血が集まる感覚がした。
「っ――、はっ……、泉っ……」
「ふ、んっ……あっ、あ……」
「クソ……。やっぱ、ナマはダメだ……。|好《よ》すぎる」
思わず漏らした感想に、泉が笑う。
「良いよ、おれは」
「……ど阿呆」
頭を軽く小突いて、黙らせる。
何が、『良いよ、おれは』だ。こっちが困るっての。
泉は、何も嫌がらない。
全部、受け入れる。
『良いよ。毎日、ナマでも。おれは』
その意味に、気づかない訳がない。
(ただでだえ、のめり込んでんのに)
自分が、嫌になる。
冷たくしても。
突き放しても。
想いを口にしなくても。
お前の気持ちを踏みにじっても。
お前が全部、受け入れるから。
(俺が、ゴミみたいになるんだろ)
泉のことを、突き放せない。
「あ、あっ、大胡っ……、大胡っ……」
甘い声に、頭がくらくらする。
教室には、無心で腰を振る間抜けな男と、嘲笑うように抱かれる男。どちらも、ただの獣だ。
(泉……、泉……、泉……っ)
この感情が、色褪せる日は来るんだろうか。
俺とお前は幼馴染みで。ただの親友なのに。
それで良かったのに。
どうして、受け入れたりしたんだよ。
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