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十二話 ゼミ旅行へ

 結局、泉と進藤のことをそれ以上聞くことはなかった。進藤が何者であっても、泉が居るのは俺のベッドの中だったし、殆ど毎晩、泉を抱いていたからだ。 「最近、激しくない……?」 「……嫌かよ」 「良いよ、おれは」  クスリと笑って、妖艶に俺を誘い込む―――なんてこともあったりした。  進藤の存在なんて、なんの起爆剤にもならない。何年も変わらなかった二人の関係は、今さら変わったりしない。  そんな風に、泉と交わり合いながら何度も夜を重ね、気づけば、旅行の日になっていた。    ◆   ◆   ◆ (旅行か……)  旅行へはバスで行くらしい。集合場所は学校だ。荷物を背負って泉と共に、慣れた道を行く。 「そういや、旅行したことないな」 「そうなの? 昔、北海道土産貰わなかった?」  小首を傾げる泉に、俺はゲンナリする。家族旅行の話をしたつもりはない。 「……ダチと旅行すんのも、卒業したら難しいじゃん」 「ああ――……。そっち」  そっちだよ。そっち。  ようやく解って貰えたようで、気分が少しマシになる。泉が含みのある視線で、俺を見た。 「おれは、二人でも良いよ?」 「あー、まあ、そうな」  本当はそのつもりで言ったくせに、そのつもりはなかったように振る舞う。  泉と二人きりで旅をしたら、どうなってしまうのだろうか。考えるのが怖い。  開放的になって、普段なら言わないようなことを言ってしまうだろうか。誰も俺たちを知らないのを良いことに、恋人のように過ごすだろうか。  世界の果てに行って、二度と帰らない気持ちになってしまうだろうか。 (あり得すぎて怖いわ) 「まあ、四人で行こうぜ。藤木と滝なら、気楽だろ」 「――そう、だね」  少し残念そうな顔をする泉に、ホッとする。  泉はまだ、俺が好きだ。  集合場所には、やけに人が多かった。半数は同じゼミの生徒だが、知らない顔も多い。先に来ていた藤木と滝に「なんか多くないか?」と首を傾げる。 「お前、聞いてなかったのかよ。ゼミ合宿、増田ゼミとの合同だろ」 「まあ、櫻井だよなァ」 「マジかよ」  そもそも、ゼミ合宿の参加は任意である。恐らく、やる気のない俺のような人間の参加は、少数派だろう。 「木嶋。おはよう」  不意に声をかけられ、ドキリとして視線を向ける。爽やかなイケメン男子。自称ゲイの進藤が、荷物を小脇に抱えて立っていた。 「おはよう。荷物重そう」 「本たくさん持ってきちゃって」  泉と笑い合う進藤に、胸がざわめく。 (ああ、そうか。増田ゼミ……)  確か、進藤の所属していたゼミだったはずだ。どうやら参加組らしい。  俺の視線に気づいたのか、進藤が顔を上げる。 「清住ゼミのひと? 今日はよろしくお願いします。進藤漣です」 「ども……。櫻井大胡。櫻井で良い」 「ああ――きみが……」  含みのある言い方に、眉を寄せた。泉が、一瞬だけ俺を見た。 「木島の幼馴染みだって、聞いてるよ」 「あ、そう。俺はあんたのことは知らないな」  暗に、泉の口から名前の上がらない程度の男だと、口にする。 「……」  互いに、なんとなく牽制の空気がある。進藤は眼を細めて、俺をじっと見た。  俺は何か言いたげな進藤を無視して、荷物を抱え直してバスの方へ向かう。 「先行くぞ」 「あ、待ってよ。大胡」  後ろから、泉が追ってくる気配があった。そのことに、ちっぽけな自尊心が満足する。  バスに乗り込むと、隣に泉が座った。通路を挟んでその隣に、進藤が腰掛けた。思わずギョッとして、進藤を見る。そこは、滝と藤木が来るはずだ。  そう言おうと思ったが、いつの間にか藤木と滝は一番後ろの席を陣取っていた。  失敗した、と内心舌打ちする。 「バスこっちに乗るの?」 「うちは参加者少ないから、分散。木島の近くの方が良いし」  爽やかに笑う進藤に、泉がどんな顔をして居るのか―――。  怖くて、見ることが出来ず、俺は窓の外をずっと眺めていた。

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