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十七話 真夜中の続き
「……ん」
遠くで聴こえてくる人の気配に、薄く眼を開ける。旅館の従業員が動き出したのだろう。
夜更けまで睦合っていたお陰で、乱れた浴衣のまま泉を背中から抱き締めていた俺は、目が覚めると同時に汗の不快感に顔をしかめた。
泉の浴衣は帯ばかりで殆ど裸同然だったし、下着は丸まって布団の奥に投げ捨てられていた。こんな状況では言い訳できるハズもなく、真っ先に目が覚めたことに少しだけホッとする。
ホッと息を吐いたところで、のそりと泉が振り返る。
「起きてたのかよ」
「おはよ」
クスリと笑って、チュと唇に軽くキスをする泉に、お返しとばかりにキスを返す。
泉はくすぐったそうに笑って、俺の腕から抜け出すと、上体を起こして浴衣の乱れを直す。
「なあ、散歩行かない?」
「今から?」
「風呂が始まるまで時間あるし」
「……まあ、良いけど」
誘われるままに起き上がり、浴衣を直す。泉が下着を探していたので、拾い上げて懐にしまった。
「大胡」
「どうせ脱ぐじゃん?」
「ったく……」
呆れた顔の泉に、俺は笑いながら浴衣の上から尻を揉んでやる。薄布一枚だと、なんとなく尻の形が解っていやらしい。
「っ、ん……、あんま……」
「嫌?」
「嫌というか……、お前の、ナカに入ったままだから……」
「ああ……」
そういえばナマでしたんだったと、今さら思い出す。俺のが入ったまま、ノーパンで散歩とか、興奮する。
「はやく行こう」
「ん」
寝静まっている藤木たちの横を通りすぎて、部屋を出る。客室の殆どは寝静まっているようだったが、厨房や清掃の人間は起き出しているようだった。朝食の準備を始める匂いを感じながら廊下を歩き、ロビーへ向かう。受付の番頭らしい老人が「お早いですね」と挨拶をしてきた。
散歩に出ると告げて外へ出る。辺りはまだ薄暗い。浴衣で出だしたため、朝の空気がひんやりと冷たかった。
俺は横目に泉を見る。白い肌が寒さのせいで、余計に寒ざむしく見えた。彩度の低い風景に、二人並んで歩き出す。
「静か」
「ああ」
誰も居ないみたいに、静かだ。昼間の観光地の空気とは違って、どこか異世界のような感じがする。店はどこも閉まっており、近くの旅館も寝静まっているようだ。
景色を眺めながら、ブラブラと散策する。
「……」
俺は無言で、泉の冷たい手を握った。泉がピクンと肩を揺らす。
「冷えてんな」
「大胡の手、あったかい」
浴衣の広い袖口から手を忍ばせ、肌に触れる。泉の身体は随分、冷えきっていた。
「あ……」
腰を引き寄せ、唇を吸う。泉は一瞬、人目を気にしたようだったが、周囲には誰もいない。舌を忍ばせ、中を探る。身体は冷たいのに、口の中はあたたかかった。
「ん、ふっ……」
道端で、キスしたことなどなかった。誰かに見られるかも知れないと思う。それと同時に、見せつけてやりたい欲求が、胸の奥にあるのを自覚する。
「っあ、大胡……っ」
ビクン、泉が震えた。どうしたのかと視線をやれば、随分と潤んだ瞳をしている。
「なんだよ。欲しいの?」
からかうように囁いてやれば、泉はムッと唇を曲げて胸を押し返して来る。逆に引き寄せ腰を撫でてやるが、泉は「違うから」と首を振った。
「嘘つけ、そんな顔して」
「馬鹿。ナカから出てきちゃっただけだって」
「あ?」
「拭くもの――あ、あそこにトイレある」
急ぎ足でトイレに入る泉を追って、俺も個室に入り込む。泉は少し困った顔をしたが、出ていけとは言わなかった。
「大胡……」
トイレは最近できたのか、真新しく綺麗だった。ただ、男二人で入るには、やや狭い。便座を背にして、泉が俺を見上げる。
俺は無言で泉の浴衣の裾を捲り上げ、白い脚を晒させた。
「ふっ……。穿いてねえの、変態じゃん」
「他人のパンツ懐に持ってるヤツの方が、変態だろ」
「じゃ、変態同士だ」
揶揄するように笑って、唇を重ねる。チュ、チュと音を立てて口づけながら、帯をほどいていった。
「大胡……、ん」
「こんなところで裸になって」
「誰のせいだよ」
「ふは。エロ……」
脚の間から垂れる精液に、ゾクゾクと嗜虐的な感情が湧く。泉から浴衣を取り払う。一糸纏わぬ姿なのに、滑稽さよりも美しさの方が際立った。
生まれたままの美しい姿に、無言で腰を引き寄せぎゅっと抱き締める。
「……大胡?」
「……掻き出してやるよ」
「……指で?」
泉がねっとりとした視線で、俺を誘う。
「こっち、まだ勃ってないから」
「嘘つき」
泉は俺の耳にそう囁いて、耳朶を噛む。長い指が浴衣の隙間に忍び込んで、下着の上から俺のを揉みこむ。
「もう、こんなじゃない……」
「っ、泉……」
泉は器用に指を動かしながら、俺の帯をほどいた。パサリ、衣擦れの音とともに、浴衣がはだけ落ちる。
「ふふ……。大胡も、変態だね」
「ばかに興奮するわ」
「する?」
泉が小悪魔の顔で問いかける。
「しないとかないだろ」
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