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外伝2 想いが通じたあと

※本編24話後の話です。 ------------------------------  シャワーの音に緊張するなんて、いつぶりだろうか。今更、こんな気分になるとは正直思っていなかった。 (中学生じゃあるまいに……)  そう思いながら、ベッドに腰かけ、落ち着きなく髪をぐしゃぐしゃにする。ため息を吐き、ソワソワと足をゆする。 (……シャワー、長くねえか……?)  いや、こんなもんだったかも知れない。いや、長すぎる。  いや、今来られても、何だかどんな顔をして良いか解らない。  いっそのこと、ベッドに潜り込んで寝たふりをしてしまおうか。そう思った矢先、シャワーから出た泉が部屋の中に入って来た。 「!」  ビクッと肩を揺らす俺の目の前に、ろくに身体を拭きもしないで、泉がやって来る。白い肌はシャワーのせいかバラ色に染まって、なんとも言えない妖艶な雰囲気を醸し出している。髪から垂れる雫が、鎖骨から胸元へと滑り落ちる。  泉はバスタオルを羽織ったまま、静かにベッドに近づいてきた。 「大胡」  甘やかな声で、泉が呟く。泉はじっと、俺を見下ろしていた。 「お、おう……。ちゃんと暖まったか? 冷えただろ?」 「うん。ねえ」  泉の手が、頬に触れる。ビクリ、肩を揺らす俺に、泉がクスクスと笑った。 「なんでそんなに緊張してるの?」 「うるせえよ」  泉の顔が近づく。唇にキスされるかと思ったが、泉は鼻先にちゅ、と軽くキスをした。 「……」 「なあ、もう一回、言ってよ」 「……なにを」  泉が何を欲しがっているかなんか、解っていたが、俺は知らぬふりして目を逸らす。  泉を手放せないくせに、泉ももう俺から離れるつもりがないと解っている癖に、言わなきゃよかったとも思っていた。  泉が笑いながら、耳元に囁く。 「愛してるって」 「――」  ゾクリ、背筋が粟立つ。泉の掠れた声に、心臓がざわついた。 「………イヤデス」  思わず小声になって、そう返事をする。  あんなもん、恥ずかしくて言えるわけないだろ。そもそも、わざわざ言う必要があるか? どうせ解ってるクセに。 「大胡ってば……。そういうの、カッコ悪いと思ってるんだろ」 「俺ぁ、そういうヤツだからな」  泉が呆れた顔をして、俺の顎を撫でた。妖艶な、娼婦のような顔で、薄く笑いながら俺の膝に乗る。太腿の感触に、ビクリと肩を揺らした。 「愛してる」 「――――――――――――」  一瞬、何を言われたのか解らなくて。次いで、脳に届いた言葉に、ブワッと体温が上昇する。 「お、まっ……」 「そういえば言ってなかったなって」 「――――」  いたずらに成功したような顔で、泉が笑う。俺は唇を曲げ、泉を睨んだ。 「お前な……。泣かしてやるから」 「わあ、楽しみ」  ニッコリ笑う泉の腰を掴んで、ベッドに押し倒す。  手加減するもんか。絶対に泣かせてやる。  泉の唇を噛むように吸い上げ、キスをする。泉の腕が、俺の首に周る。泉が、蕩けるような笑みを浮かべて俺を見た。 「――…」 (そう言えば、こんな顔、初めて見るかも知れない)  一瞬手を止めた俺に、泉が小首をかしげる。 「どうしたの?」 「……やっぱ、優しくする」 「なにそれ」  ぷは、と泉が笑う。  俺はもう一度キスをして、ゆっくりと泉の身体を撫であげた。

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