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第6話 新事実

 俺が、高等部へ進学した春、秘書の木村さんが、屋敷にやってきた。 「昭彦さん、ご進学おめでとうございます」 「ありがとう…まぁ普通に学校へ行っていたら、勝手に上がれるんだけどね」  俺は、苦笑した。 「父さんは出張中だけど、木村さん、今日はどうしたの?」 「ええ…今日は、昭彦さんにお話しがあって」 「俺に、話し…?」 「はい。できましたら、昭彦さんのお部屋でさせてもらえれば、と思うのですが」 「ああ…いいよ別に」  幼い頃は、兄と一緒に俺の部屋で木村さんと過ごすこともあったが、ここ数年はそんなことは一切なかった。木村さんは一体何を話すのか、廊下を歩きながらチラチラと木村さんを見ていると、木村さんはクスッと笑った。 「そんなに、ご心配をなさらなくても…実は、君彦さんにも渡航前にお話しさせていただいたことです」 「ふぅん…そうなんだ。ねぇ、木村さん、俺何か飲み物持ってくるから、先に部屋に入っててよ」  俺は、廊下を戻って厨房に行くと、休憩中の料理人に、マグカップにコーヒーを二つ入れてもらった。すると、家政婦が声をかけた。 「昭彦様。仰っていただければお持ちいたしますのに…」 「ありがとう…木村さんと少し話しをするだけだから」  俺がコーヒーのカップを持っていくと、木村さんは部屋の前で待っていた。 「どうしたの?…先に入ってくれてたらいいのに」 「いいえ。昭彦さんはもう子供ではないのですから」  俺は、木村さんの言葉をくすぐったく感じながら、部屋のドアを開けた。  俺はベッドに腰掛け、木村さんは勉強机の椅子に座った。 「昭彦さん。今からお話しすることは、少々耳障りの良くないこともありますが、どうか、我慢してお聞き下さい。久郷家にとっては大事なお話しです」  そう前置きしてから木村さんは話しを始めた。  俺の父、久郷宗彦には三人の姉がいる。男子は父だけだ。  父の母親、つまり祖母は、久郷家の後継ぎとして、男の子を何としても産まなければならなかった。そして四回目の妊娠でようやく男子を授かることができた。それが父だ。  その父は、久郷家の後継ぎとして何の問題もなく成長した。やがて久郷土地開発に入社し、その翌年には祖母方の郷里の代議士の娘と見合いをした。互いに好意を持ち三ヶ月で結納、その三ヶ月後には婚礼の運びとなった。祖母はかつて自分がそうであったように、新婚の若夫婦に早く孫の顔が見たいとせっついたらしい。  父は絶倫らしく、毎夜毎夜夫婦の夜の営みに励んでいたが、一年経っても子は授からず、祖母は嫁にお守りを持たせたり、体を温めるお茶を飲ませたり、精神的重圧をかけ続けた。父はそんなこととは知らずに毎夜の性交を続けていた。そんな生活が二年も過ぎたある日、離婚届と手紙を残して、嫁はこの屋敷を出て行った。  父はかなりのショックを受け、しばらくは馴染みの高級クラブで飲み明かしたらしい。その時に子供を授かれなかったことなどの愚痴を聞いてくれたホステスが俺たち兄弟の母親だ。  本気かリップサービスかはわからないが、母は父に、私が宗さんの子供を産んであげましょうか、と言ったらしい。そしてすぐに大人の関係になり、妊娠した。祖父母は調査会社に依頼をして、母の身元を調査した。金銭的なことで特に問題はないと判断すると、直ちにホステスを辞めさせ、知人の娘ということにして久郷土地開発に入社させた。そして、結婚、出産。兄、君彦が生まれた。その二年後に妊娠。俺が生まれた。  親戚関係には水商売上がりと嫌悪感を露にされたそうだが、健康な男子を二人も産んだことで、久郷家での母の地位は上がったそうだ。母は美人でスタイルもよく社交的な性格であったため、父が祖父から会社を継いだ後も内助の功を発揮した。  会長となった祖父は祖母と一緒に敷地内の別邸へ移り住むこととなった。  父の絶倫ぶりは衰え知らずで、俺たちが初等部に進学した頃、社長に就任した父は、夜は懇談会で多忙を極め、母との性交を夜にするのは難しくなり、出来ない日は、日中のスケジュールの合間を縫って行っていた。あの離れでだ。ばあやは両親の行為の最中に俺たちが入っていかないように、普段から進入を阻止していたようだった。まさに離れは、かつて木村さんが言ったように、『性交の部屋』だった。

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