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第7話 新たな展開

 あの時、兄は、俺がショックを受けないように、両親の性交を自慰に置き換えて話してくれたようだった。 「話しは、まだ少し続きますが…昭彦さん、大丈夫ですか?」 「ああ、平気だけど。でも、どうして木村さんが話してくれるの?」 「それは、私が適役だと、社長がご判断されたからです」 「…そうなんだ」 「いつかは、奥様、いや、お母様のこともお知りになる時がくるでしょう。見ず知らずの人から噂めいた話しを聞くより、きちんと真実を知っておいて欲しかったのだと思います。とは言え、父親の立場では言い難いこともあったのではないでしょうか」  どうやら木村さんは、父からはかなりの信頼を得ているようだった。  で、今も両親は俺に気付かれないように、あのせいこうの部屋で性交をしているらしい。そのことを知った上で、知らない振りをしていただければ、これは私の一存なんですが、と頭を掻いた。そして、最後に父のその行為は久郷家と久郷土地開発の発展のために、必要不可欠なことなんです、と木村さんは話しを締めくくった。  俺は、木村さんに、任務、無事終了できたね、と揶揄うと、はい、と笑顔で言った。そして俺のマグカップも一緒に持って、部屋を出ていった。  父にとっては、セックスは排泄と同じなんだと、俺は勝手に理解した。  数年後、俺が高等部を卒業する時と同じくして、ばあやも、久郷家のばあやを辞めることになった。  高齢ということもあるが、俺たち兄弟には、もうばあやという存在は要らなくなったのだ。  ばあや最後の日、一時帰国した兄と一緒に、ばあやを目一杯抱きしめて、心からの感謝を伝えた。ばあやはもったいない、もったいないことです、と泣いた。俺たち兄弟も泣いた。  その夜、久しぶりに兄と話しをした。せいこうの部屋は今も出入り禁止だということを話すと、父さんは本当タフガイだよな、と笑った。  俺たちは、いつの間にか、それなりの大人になっていた。    俺が大学三年の時、両親の夫婦の営みに危機が生じた。  母が、腹痛で救急搬送されたのだ。病院で検査の結果、婦人科の病気が発覚した。病状はそこそこ進行していた為、治すには外科的治療しか選択肢はなかった。つまり、手術だ。直ちに手術をしなければいけないわけではなかったが、これからも痛みで日常生活は困難になるのは明らかである為、早めに決断をして下さい、と主治医から治療方針も含めた提言を受けた。  母は自分の体のことより、父の下半身の心配をした。入院して手術となると、最低でも二ヶ月は父に我慢を強いることになる。が、それは不可能に近いことだとわかっていた。妻の入院で淋しさを紛らわそうと、馴染みのクラブにでも行こうものなら、母は不倫こそしてはいないが、かつての自分のように言い寄るホステスはいないとも限らない。何せ相手は大企業の社長なのだから。万が一の間違いで他所に子供ができたら、と思うと、おちおち自分の治療のことなど考えられなかった。  すると、そんな社長夫人の身を案じて、秘書の木村さんは、一計を案じた。  それは、絶対に妊娠をしない人に社長のお相手をしてもらおうということだった。要するに男が相手だ。母も困惑したが、それよりもいい手立てが思い付かず、その珍案を受け入れた。  そして、木村さんは自分のクビを覚悟して、その珍案を社長に進言した。  社長、いや父は、おおらかというか、肝っ玉が座っているというか、そういうことなら仕方がないな、とすんなりその珍案を承諾をしたらしい。  母が入院をした二日後に、表向きは屋敷の営繕を担当する使用人として、兄より少し年上の男がやってきた。  木村さんから、その男を紹介されたが、俺は、よろしく、と言うのもおかしなことだと思い、無言で会釈をするに留めた。母が退院するまでの契約らしいが、男を受け入れた父と、これからどう接していけばいいのか、俺は思い悩むのだった。

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