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第13話 独り立ち
初めは俺がディルドを挿れてやった。今までの指とかなり違って感じるのか、秀紀は痛みこそ訴えはしないが、尻をもぞもぞとさせた。
「秀紀君、どうだい?」
「…あっ、はい…なんだか棒を突っ込まれている感じです」
ある意味正解だ。
「秀紀君、このまま仰向けになれるかな?」
俺は、尻にディルドを突っ込んだまま、秀紀を側臥位から仰臥位にさせた。すると秀紀は自分のモノが俺の目に触れないように手で隠そうとした。俺はその手を掴むと、その先のディルドに触らせようと手を引っ張った。そして、ディルドを握らせた。
「いいかい…こんな感じで入ってるんだ。自分で動かしてみようか」
「…やってみます」
秀紀は恐る恐る、手を動かし始めた。何度か抜き差しをしていると、時折り下腹部をピクッとさせることがあった。
「あの…先生。ある箇所に当たると、変な感じがします」
「あぁ…まぁ、それは、たいしたことではないよ。それより、自分で挿れられるかの方が重要だからね」
それから、しばらくの間、ディルドの持ち方を変えながら、秀紀は自分でしやすいポジションを探った。
「ふむ…自分でできそうだね」
「何とか、いけそうです」
「よし。じゃあ、治療は今晩で終了だ。よく頑張ったね。お相手が帰ってくるまで自主練をしっかりするんだよ。それと…」
それと、父を宜しく、とは言えなかった。
二日後の夕方、父は出張から帰ってきた。
その次の日の朝、俺は朝食を食べようとダイニングにいくと、父がテーブルでコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。見慣れない光景だ。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
父は新聞の端をチラッと捲って、俺を一瞥した。
「昭彦…手間をかけたな。助かったよ」
父は出張からの帰宅早々に、秀紀としたようだ。助かった、と言うことは、秀紀はきちんと自主練をして、痛みも傷もなく、できたということだ。
「…あっ…いえ」
俺はそれ以上は何も言えない。それに同じテーブルに着くのも無理だ。
塩鮭の焼けた、いい匂いがしていたが、俺はマグカップにコーヒーを入れて部屋に戻ろうとした。
「昭彦様。お食事は召し上がらないのですか?」
家政婦が心配そうに訊いた。
「うぅん…なんか夜食を食べ過ぎたみたいで。コーヒーだけでいいよ」
俺は部屋に戻ってコーヒーを飲み終えると、外で何か食べようと支度を始めた。
すると、コンコン、とドアのノック音の後で、昭彦様、と家政婦の声がした。ドアを開けると、家政婦がおにぎりと味噌汁をのせたトレーを持って立っていた。
「あの、旦那様が、おにぎりくらいなら食べられるだろうから、と仰って…お持ちしたのですが」
父は、すべて、わかっているようだ。
「ありがとう。後でいただくよ」
ドアが閉まると、俺はさっそく塩鮭のおにぎりをぱくついた。
治療最終日以降、屋敷で秀紀の姿を見ることはほとんどなく、せいぜい遠目でチラッと見かける程度だった。
穏やかに月日は過ぎ去った。
俺は大学の卒業と同時に、兄と入れ替わりで久郷土地開発の海外支社で勤務をすることになっていた。
俺は、生まれ育ったこの屋敷を初めて出る。
そして、離れでの出来事はここに置いていく、と決めた。
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