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第4話
「なんで付いてくんの?」
「心配だから」
「念のため」
診察室の前まで双子 が付いて来た。
さすがに中には入らないよな?
診察室の引き戸をノックして「どうぞ」という返事を聞いてから開く。
双子には「ここで待て」と目で伝えてから、中へと入った。
「青木 、南風 さん、ですね」
「はい」
担当医師はとても優しそうな人だった。
穏やかな笑顔で、自分の前のイスを勧めてくれる。
「結果をお伝えする前に、今日はどなたかご家族と一緒にいらしてますか?」
「え?・・・えっと、両親は海外赴任中で、家族絡 みで付き合いのある、お隣さん一家が付き添ってくれてます。たぶん両親からも頼まれて、一緒に来てくれたんだと・・・」
「そうですか。来てくださった方のバース・ダイナミクスはご存知ですか?」
知ってるけど、なんで俺の検査結果聞くのに、付き添いのバース・ダイナミクスを聞くんだろ。
まあ、いいか。
「NormalαとNormalΩの夫夫 と、DomβとNormalαの双子が来てます」
「・・・その、双子さんは、年が近いんですか?」
「1つ上の幼馴染です」
「仲は良いですか?」
「え・・・っと、悪くはない、です」
なんでそんな事聞くんだよ。
俺の検査結果と双子は関係ないじゃん・・・。
「ちらっと見えたんですが、診察室の前まで来てくれてますよね。入ってもらいましょうか」
「え・・・?」
なんで?
俺のバース・ダイナミクスの検査結果を聞くだけなのに、なんで双子も一緒に?
先生は立ち上がり、診察室の引き戸を開けた。
「南風さんの付き添いの方々ですよね?中へどうぞ」
「「はい」」
おい、勝手に双子を中に入れんなよ。
先生は双子にもイスを勧めてから、自分のイスに座った。
俺はいつも通り、ナギナミに挟まれた状態になる。
なんか、検査結果を聞くのが怖くなってきた・・・。
「おふたりは、南風さんの幼馴染と聞きましたが、南風さんとは仲が良いんですか?」
「「はい」」
先生の質問に、躊躇 う事なく声を揃えた双子。
なんか、恥ずい・・・。
「兄弟同士の仲はどうです?喧嘩はしますか?」
「仲は良いです」
「喧嘩はした事ありません」
そう言えば、双子が喧嘩してんの見た事ないな。
いつも一緒にいて、なんか文句言ってんのはいつも俺だけだったし、双子は言い争うような事もなかった。
先生は双子の言葉を聞いて、なぜか少しほっとしたような顔をした。
いや、だから、双子の仲と俺の検査結果は関係ないだろ。
「そうですか、良かったです。もしかしたら、おふたりはなんとなく気付かれていたかもしれませんが、南風さんのバース・ダイナミクスはSubΩです」
・・・・・・・・・え?
今、なんて言った?
先生がやっと、俺の検査結果を口にしたのに、俺が思ってたのと違い過ぎて頭に入ってこなかったんだけど?
「・・・ぁの、な・・・んて・・・?」
「南風さん、あなたのバース・ダイナミクスは、SubΩです」
どうして?
俺、Normalβでしょ?
じゃなきゃおかしいって。
だって・・・。
「「ナオ!?」」
双子が俺の名前を呼んだ。
視界が歪む。
身体が傾く。
あ・・・倒れ・・・。
「ナオ!しっかり!ナギ、コマンド使って!」
「ナオ、Come 」
傾きかけた身体が、ナギの声に引き寄せられる。
そのまま俺は、倒れ込むようにナギの腕の中におさまった。
「Goodboy 」
ナギが俺を褒めながら、頭を撫でてくる。
・・・なに、これ・・・なんか・・・ふわふわする・・・。
「やはり、おふたりに側に居てもらって正解でした。しかし、結果を聞いた途端にサブドロップしかけるとは・・・今まではなんともなかったんですか?」
「はい、僕たちが常に側にいたので」
「俺が、ナオに気付かれないような軽いコマンド使ってました」
ナギが俺を膝の上に座らせながら言った。
軽いコマンド使ってた・・・って?
俺に?
いつ?
「そうでしたか・・・では、今までもよく、3人でいらしたんですね?」
「「ナオが生まれた時から」」
「・・・そ、そうですか」
先生も引いてる。
そうなんですよ先生、引く程ずーっと一緒にいるんです。
「南風さんは自覚がなかったようなのでこれからでしょうが・・・おふたりは南風さんの事を」
「「愛してます」」
双子が声を揃えて、先生の言葉に被せて言った言葉に、ふわふわしてた頭がばちっと覚めた。
「なっ!?なに言ってんの!?」
あいしてます・・・って、まさか、愛してます、じゃないよな?
他になんか変換できる言葉ってなかったっけ?
「ナオ、Shush 」
「───っ!?」
ナギがまた、俺にコマンドを出した。
口が勝手に閉じて、声が出せなくなる。
理不尽な命令をされたのに、従わなきゃって、思ってしまうのはなんでだ。
頑張って、ナギの言う事聞かなきゃって・・・。
「大丈夫だよナオ。終わったら褒めてもらえるからね」
ナミが俺の手をとって、指を絡めて握る。
それだけで、俺はまたふわふわしてきてしまった。
「ナオの両親も、ウチの両親も、たぶんナオはSubΩだろうって話してました。僕たちもそうだと信じて疑いませんでしたし、今日もこうなるだろうと思って付いて来たんです」
「SubΩの重婚は特例で認められるんですよね?俺たち、ナオと結婚するつもりでいるんで」
「そうですか。それは良かった・・・」
「───っ!!」
待って、良くない!
親たちは俺がSubΩだろうって話してた?
俺はまったく聞いてないけど?
双子は俺がSubΩだって信じてた?
なんで?
じゅうこんってなに?
双子は俺と結婚するつもりなの?
なにも良くないよ!
待って、頼むから、俺の意見も聞いて・・・!
「南風さん、少し苦しそうですね。後でいっぱい褒めてあげてください。検査結果をお渡ししますので、南風さんのご両親にもお見せしてくださいね。SubΩについての資料も一緒にお渡しします。帰りにΩのヒート抑制剤と緊急避妊薬、Subの安定剤を院内薬局で受け取ってください。ただ・・・資料にもありますが、薬は効きにくいと思いますので、できるだけおふたりが南風さんの側にいてあげるようにしてください」
「「わかりました、ありがとうございました」」
先生は俺ではなく双子に説明をして、検査結果と資料もナミに渡してしまった。
それ、本人に渡すべきじゃないの?
まあその本人は、ナギに抱き上げられて頭撫でられて、ふわふわしてんだけど・・・。
俺だけ訳わかんない状態のまま、診察室を後にした。
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