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第5話
「ナオ、我慢できて偉かったな。Goodboy 」
「んぅ・・・も・・・なで・・・んなぁ・・・」
病院の待合室で、膝上に抱っこされて頭撫でられてる。
この病院はバース・ダイナミクス専門医で、待合室にいる人たちもなんとなく状況を察してくれてそうではあるけど、恥ずかしいのは変わらない。
「やっぱりナオ、SubΩだったか」
「俺、セナとハヤテに電話してくる。先に車行ってるな」
ナミから話を聞いて、ハルカさんは院内薬局へ行き、ソウマさんは検査結果を持って駐車場へ向かった。
落ち着いてきた俺は、やっとナギの膝から下ろしてもらい、待合室のイスに座る。
もちろん、双子 に挟まれて。
「帰ったら僕にも抱っこさせて。いっぱい撫でさせてね」
「もう俺たちも我慢しなくて済むからな。たっぷり可愛がってやる」
「やめろぉ・・・ただでさえ思ってた結果と違うのにぃ・・・」
だめだ、落ち着け俺。
双子に振り回されんな。
今まで普通にしてられたんだ、これからだって普通に、Normalβらしく過ごせるはずだ。
検査結果は・・・うん、忘れよう。
俺はNormalβ・・・俺はノーマルベータ・・・おれはのーまるべーた・・・。
「なーちゃんたちお待たせ、帰ろう。薬は、ナミが持つ?」
「うん」
「ナオは?」
「俺が持つ」
「・・・おい、俺を荷物扱いすんな。自分で歩く」
俺の保険証と薬を受け取ってきてくれたハルカさんと、双子に両手を引かれながら駐車場へ。
行きと同じように車へ乗り込むと、ソウマさんが通話中のスマホを寄こした。
『ナオ』
セナさんの、低く落ち着いた優しい声。
だめだ・・・この声聞くと・・・。
「ナオ、Look 」
ナギに言われて、ナギの目を見る。
不思議と、少し気持ちが落ち着いた。
「・・・ぁ、セナさん・・・おれ・・・」
『うん、大丈夫。ナギとナミが一緒にいてくれる。今まで通りこれからも、ナオの側にいて、ナオの事守ってくれるからね』
「・・・っ、・・・ぅん・・・っ・・・でも・・・ど・・・したら・・・っ」
『来月、ハヤテと帰るよ。赴任期間を早めに切り上げてもらったから、また一緒に暮らせるからね。私たちが帰るまで、ナギナミにはウチにいてもらって』
両親が帰ってくる。
向こうに行ってから、たまに電話で話すだけで、もう1年近く会ってない。
寂しかったり、不安にならなかったのは、茜霧 家のみんながいてくれたからだ。
「ゎ・・・かった・・・っ・・・まって・・・る・・・っ」
『うん。ナミに代わってくれる?』
スマホをナミに渡すと、ナギが俺の頬を両手で包んで涙を拭ってくれる。
「頑張ったな。Goodboy 」
「んぅ・・・もっと、褒めろぉ・・・っ」
ナギはふっと笑って、俺を抱き寄せて頭を撫でてくれた。
そういや中学の時、セナさんと電話した後はよくこうやって、双子に慰められてたっけ。
ハヤテさんとの電話じゃこんな事にはならないのに、なんでセナさんの声でこんなになるんだろう・・・。
「うん、わかった・・・ナギがコマンド使ってるから落ち着いてきてる・・・うん・・・ちょっと待って」
ナミがセナさんと電話で話しながら、徐 に俺の首筋に顔を寄せた。
ナミはこうやってよく、俺の匂いを嗅ぐ事があったけど、これ、もしかして・・・。
「ゃ、め・・・」
「相変わらずいい匂いだけど、発情はしてないよ。今まで意識させないようにしてたし。でも・・・これからはいいんだよね?」
発情という言葉に、ぶわっと顔が熱くなる。
やっぱり、ナミは俺のフェロモンの匂いを嗅いでたんだ・・・。
「おい、もう褒めてやんなくていいのか?」
「んぇ?いや・・・も、だいじょぶ・・・」
ナギから身体を離すと、ナミがナギにソウマさんのスマホを渡す。
セナさん、今度はナギと話すのか。
「ナオ、おいで」
「え、ちょ・・・もう褒めんのとかいいからっ」
「そう?でも僕がナオに触りたいだけだから、ぎゅってさせて?」
今度はナミに抱き寄せられ、ぎゅっと腕の中に閉じ込められてしまった。
前の席に両親がいるのに、お構いなしか。
お前ら双子は羞恥心ってもんないの?
「Come とLook は抵抗ない。Shush は苦手そうだった。Open はいつも使ってるから、コマンドだとも思ってなかったと思う・・・ん?飯食わす時」
ナギの話してる内容、俺に使ったコマンドの報告?
それ、わざわざ親に報告する必要あんの?
つか、開けろって、いつも言ってるくち開けろってやつ?
あれコマンドだったの?
は?
そんなのずっと前から言われてきて・・・。
「な・・・なあ、コマンドって、勝手に使っていいもんなの?」
「ナオはナギにコマンド使われて、嫌な気分になったりした?」
「・・・別に、してない」
むしろ、落ち着くような・・・。
「じゃ、大丈夫だね」
ナミはさらっと言って、俺の頭を撫でてから額にキスしてくる。
やめろ、セクハラだぞ!
「・・・先月まで住んでたし、荷物も置きっぱだから大丈夫。ハルカさん運転中だから、家着いたら電話させる・・・だめ、また泣くから。じゃ、切るわ」
ナギが通話を切り、ソウマさんにスマホを返した。
だめって、なにがだめだったんだ?
セナさんにだめって言うなんて、さすがナギ・・・。
「もう一度ナオに代わってって言われたけど、お前セナさんの声聞くと不安定になるから断った。これ以上泣いたら明日目が開かなくなる」
「そっ、そんな泣いてねぇし!」
でも・・・断ってくれて、良かったかも。
声聞くだけで、なんか、感情がぐちゃぐちゃになりそうだから。
「セナはDomαだから、ナオは影響されやすいんじゃないかな。大好きだけど、ハヤテのものだし父親だしってなって、苦しくなっちゃうんだよ」
俺の両親はDomαとNormalΩの夫夫 だ。
ハヤテさんはセナさんのコマンドに反応はしないんだけど、素直に応えてるからちゃんと満たされてるらしい。
ハルカさんの言葉に俺は、ああ、そうなんだって腑に落ちた。
感情がぐちゃぐちゃになりそうなのは、手に入らないってわかってるから・・・。
でも、大好きとか別にそんなんじゃないし!
「ナオが大好きなのは俺たちだよな」
「セナさんなんていなくても僕たちがいるからね」
ナギの左腕が俺の肩を抱き、ナミの右腕が俺の腰を抱く。
なんだこの、がっちりホールドされてる状態・・・身動き取れない・・・。
「ほぉんと、ウチの双子は赤ちゃん時からナオ大好きだよねぇ。あ、帰ったら俺とナオとハヤテだけで話したいから、双子はハルカと茜霧家 で昼飯作ってて」
「「ええー」」
「駄々捏 ねんな。双子の癖にソウマ様の言う事が聞けねぇのか?」
ソウマさん、可愛い顔して横暴なんだよな。
Ωなのに喧嘩強くて、そこに惚れたってハルカさん言ってたっけ。
茜霧家の駐車スペースに入り、車を降りる。
俺はソウマさんと青木家 に帰り、双子は玄関まで付いて来た。
「ナオ、なんかあったらすぐ呼べ」
ナギが俺の頭を撫でながら言う。
別に、自分ちでソウマさんとハヤテさんと話すだけだし。
「平気だから、昼飯はナポリタンがいい」
「お前、また汚す癖に・・・黒い服に着替えてこいよ」
汚さねぇよ。
いつまで俺を子供だと思ってんだ。
「ご飯できたら迎えに来るからね」
ナミが俺の頬を撫でながら言う。
おい、顔近い・・・って思ったら頬にキスされた。
セクハラすんな!
ソウマさんが玄関の鍵を開け、俺と一緒に入る。
それを見届けて、双子は茜霧家へ帰っていった。
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