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第7話

夕飯も茜霧(あかぎり)家で食べてから、俺は青木家(自分ち)に帰る事にした。 不本意だが、双子(ナギナミ)も一緒に。 「荷物それだけ?」 「先月まで青木家(そっち)に住んでたからな」 「ほとんど置きっぱなしだよ」 青木家(うち)には双子の部屋がある。 俺の部屋の隣。 小学生の頃、双子が青木家(こっち)に住む事になって用意した部屋だ。 茜霧家(あっち)の両親が海外赴任から帰って来て、一応双子は茜霧家に帰ったけど、部屋はそのまま。 俺と一緒にしれっと青木家(うち)に帰って来る事も多かったし。 青木家(うち)の両親が海外赴任する事になって、双子は即青木家(うち)に住んで、双子(お前ら)どっちの家の子なのって近所の人は疑問に思ってるだろう。 俺が高校生になって、独り暮らしできるって言い張って双子を茜霧家に追い返したのに、こいつら結局青木家(うち)に入り浸ってたしな。 ・・・そもそも、青木家(うち)の鍵を俺が持ってない時点でどうかと思う。 「ねえ、チョーカ(これ)ーって風呂入る時どーすんの?」 「一応防水になってるけど、お風呂の時は外そうか。お風呂出たらまた着けてね」 「3人で一緒に入るか?」 「お前らデカいから無理」 デカくなくても無理。 エッチ云々の話思い出したらやばいし・・・。 ナミにチョーカーを外してもらい、風呂に入る。 双子はいつも通り、リビングでテレビでも見てるだろう。 髪と身体を洗い、湯船に浸かる。 今日はほんと、いろんな事あったな。 俺の人生の方向性が180度変わった気がする。 「Normalβだと思ってたのに・・・」 双子と、一緒にいられなくなる未来を覚悟してたのに。 それどころか、エッチだとか重婚だとかいう未来が来るかもしれないとは・・・。 「はぁ───・・・」 SubΩは最も不安定なバース・ダイナミクスだ。 該当する人間も少ないし、サブドロップしやすく死亡率が高い。 セナさんみたいなDomαと出逢う確率も低いし、Normalαとだけ(つが)ってもコマンドケアが受けられなくてサブドロップするし、Domβとだけパートナーになっても発情期の体調不良でサブドロップするらしい。 本来はDomαと一緒にならない限り死亡確定・・・って感じらしいけど、例外として俺たちみたいな関係性も存在する・・・って資料に書いてあった。 DomβとNormalαとの重婚。 Domとαの相性が良くないと、SubΩを取り合ってサブドロップさせるなんて事になるからだめらしいけど。 ・・・あの双子、仲良いからな。 俺にとって、都合のいい、有難い存在なんだろうな。 「感謝・・・しないとな・・・」 双子がいなかったら、きっと俺はサブドロップで死ぬんだ。 首に()められた、もう簡単には外せないカラーを指でなぞりながら、これが俺を生かしてくれてるんだって再認識する。 「ナオ、逆上(のぼ)せてない?そろそろ出ておいで」 脱衣所からナミの声がして、はっとする。 考え事してたら長湯してしまった。 この後、双子も入るのに。 「ぅん、今でる・・・」 立ち上がって湯船から出ようとしたら、ちょっとくらっとした。 やば、逆上せた・・・。 「ナオ、逆上せたんでしょ?入るよ」 風呂場のドアを開け、ナミが入ってきた。 バスタオルで俺を包んで抱き上げる。 「やっぱ逆上せたのか。ほら、水飲め」 ナギも来て、グラスに入れた水を飲ませてもらう。 こーゆーの、これが初めてじゃない。 何度かやってる。 「・・・いつも、ぁ・・・りがと・・・」 今更だけど、双子に世話焼かれっぱなしだったなって思って、改めて礼を言う。 やってもらって当たり前だなんて思ってはなかったけど、自分でできるって拒否するばっかで、ちゃんとアリガトウって言ってこなかったし。 「ナオ・・・ちゃんとお礼言えて偉いね」 「礼ならキスでもいいんだぞ」 「・・・・・・・・・」 言わなきゃ良かったかな。 ─────── 検査の翌日。 真朱色のチョーカーと、簡単には外せなくなった黒いカラーをして登校する。 いつも通り双子に挟まれて歩きながら。 「休み時間にまた来るからな。少しでも具合悪くなったら授業中でも連絡しろ」 「ん」 「薬は持たせてるけど、自分で飲まずに僕たちに連絡して。いい?」 「ん」 登校中も言われてたけど、教室に着いて再度念入りに言われる。 わかった、わかったから、もう行ってくれ。 双子は俺の頭を撫でてから、自分たちの教室へと向かって行った。 やれやれ・・・。 「青木(あおき)、はよ」 「はよ」 須藤(すどう)が声をかけてくる。 あ、そう言えば、須藤の検査結果はどうだったんだろ。 「お前・・・やっぱSubΩだったんだな」 「え・・・やっぱって・・・なんで?」 「いや、なんとなく。茜霧兄弟が揃って側にいるし、茜霧兄弟の威嚇(グレア)、すげぇし」 「・・・え?」 双子がグレアをとばしてた? 俺は全然気付かなかったけど・・・。 「で、須藤はどうだった?」 「俺はDomβだった。お前にコマンド使ったら、茜霧兄弟に殺されるな」 「やめろよ」 それはまじでシャレにならん。 ナギもキレるだろうけど、俺がサブドロップで死ぬかもだし。 ・・・あれ、なんで須藤のコマンドだとサブドロップするって、思ったんだ? 「双子がいる時に話しかけてこないのって、ナギが怖いから?」 「当たり前だろ。あっちはたぶん、俺がDomだって気付いてたんじゃないか?俺は平和に暮らしたいんだ」 須藤は中学の頃から双子と面識があったのに、そう言えば会話してるとこ見た事なかったな。 「薬、もらったのか?」 「うん。でも効きにくいって」 「だろうな。茜霧兄弟が休み時間の(たび)にお前んとこ来てたの、いつサブドロップするかわかんないからだったんだろ。愛されてんな」 「はあ!?」 あ、あい・・・されて・・・? やめろ、余計な事言うな。 そーゆーの考えないようにしてんだから。 「まじで、体調変だと思ったら迷わず茜霧兄弟を呼べよ?Domの欲求は守りたいとか世話をしたいってのもあってさ、Subに遠慮されんの嫌なんだ」 「へぇ・・・わかった」 予鈴が鳴り、須藤が自席へ戻った。 ・・・どうしよう、なんか、考えなくていい事を考えてしまう。 ナギがDomじゃなかったら、世話をしたいって欲求がないから俺の面倒なんて見ない。 ナギがそうなら、ナミだって。 俺の首に、チョーカーとカラーは着けなかった。 1限目の授業が始まっても、どうしても考えるのをやめられない。 ナミがαじゃなかったら、SubΩの俺は双子以外の相手を探さなきゃいけなくて、このチョーカーとカラーは俺の首には着けられなかった。 俺がSubΩじゃなかったら、そもそもこのチョーカーとカラーは俺には必要なくて、双子はそれぞれ相手を・・・。 ────コンコン 教室のドアがノックされる音。 俺は特に気にせず、教科書を見るフリして机に突っ伏してた。 「「ナオ」」 「・・・・・・ぇ?」 なんで、双子の声が・・・? 顔を上げると、今ここにいるはずのないナギとナミが立ってる。 なに、これ、幻覚・・・? 「連絡しろって言っただろ」 「顔真っ青だよ。帰ろう」 ナギが先生に説明しに行き、俺はナミに抱き上げられ、教室を出た。

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