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第8話
なんだこれ、夢か?
俺、1限目から居眠りしてる?
起きなきゃ・・・余計な事考えてる場合じゃない・・・。
「ナオ、Look 」
俺を抱いたナミと並んで歩いてるナギが、コマンドを使った。
言われた通り、ナギの目を見る。
・・・嬉しい。
コマンド、嬉しい、もっと言って欲しい。
ちゃんと言う事聞くから、褒めて・・・。
「Kiss 」
初めてのコマンドだ。
ここ、まだ校内の廊下なのに。
キス・・・したら、褒めてくれる・・・?
気付くとナギの頬に手を伸ばし、俺からキスしてた。
ちゃんとできた?
偉い?
褒めて・・・。
「Goodboy 」
そう言って、今度はナギからキスしてくれた。
じわあ・・・と、身体が熱くなる。
褒められた・・・嬉しい・・・いい子って言ってもらえた・・・。
「ナオ、僕にもして」
俺を抱いて歩いてるナミが、耳元で囁く。
ごめん、ナミの事忘れてない、ちゃんと・・・。
「ん・・・んぅ・・・っ」
ナギにしたみたいに唇を重ねたら、ナミは俺の後頭部を手で抑えてもっと深く重ねてきた。
「・・・ん・・・ぁ・・・っ」
「ナミ、続きは帰ってからにしろよ」
「・・・うん、我慢する」
頭、ぼーっとする。
これ、夢なんだよな?
俺、教室で、1限の授業受けてるんだよな?
こんな夢、見てる場合じゃ・・・。
「タクシー来てるぞ」
「急ごう」
ナギがスマホを確認し、ナミが歩みを早める。
アプリでタクシー呼んだのか。
電車で2駅なのに、わざわざタクシー使わなくても・・・いや、俺が歩けなそうだからだろうな。
「ナオ、靴履き替えさせるぞ」
「ん・・・」
昇降口で、ナギが俺の下駄箱から俺の靴を持ってきてくれた。
下ろしてもらって自分で履き替えるって言えばいいのに、どうせ夢だしと思って素直にやってもらう。
ナギが俺の上履きを下駄箱に戻しに行ってる間、俺はナオの肩に顔を埋め、ナオっていい匂いだなぁってぼんやり考えてた。
匂い嗅ぐなんて変態みたいだ。
・・・あれ・・・夢なのに、いい匂い・・・?
「顔色、だいぶ良くなってきたな」
「なんとなく嫌な予感したんだよね。何がきっかけだったんだろう」
きっかけ?
なにが?
あ、俺が具合悪くなったきっかけ?
それは・・・ナギが俺の世話を焼くのはDomの欲求のせいだって、須藤が・・・。
「ナオ、Come 」
きっかけを思い出して一瞬頭がぐらついた俺に、ナギがコマンドを出す。
俺は両手を伸ばし、ナミからナギに渡された。
「Goodboy 」
「すぐ不安になっちゃうね。こんなに可愛がってるのに」
「発情期きてナミと番になれば落ち着くだろ。俺もあんま強いコマンド使ってねぇし」
双子がなんか話してるけど、俺は頭がふわふわしてきてよく聞こえてない。
ナギに抱かれ、ナミと手を繋いだまま、俺たちは校門前に待っていたタクシーに乗った。
・・・あれ、もしかしてこれ、夢じゃない、のか・・・?
───────
「夢じゃなかった・・・」
青木家 に着き、ナミにリビングのソファまで運ばれた。
ナギはキッチンで飲み物を用意してるらしい。
「・・・あ、ソウマさん?ナオが具合悪くて帰ってきた・・・うん、青木家 にいる・・・大丈夫、昼は僕たちで作るから。夕飯はそっちに・・・」
ナミが俺の左隣に座ってソウマさんに電話してる。
ソウマさんはWebデザイナーで在宅仕事、ハルカさんはセナさんと同じ会社の営業だ。
「ナオ、ココア」
「ありがと・・・」
ナギが右隣に座り、マグカップを渡してくれた。
ちびちびと飲みながら、学校を早退する必要はあったのかと考える。
「なあ、別に帰ってこなくても良かったんじゃね?」
「なに言ってんの、病院でもらった資料ちゃんと読んだ?僕たちが行かなかったら、ナオあのまま倒れて救急搬送されてたよ?」
「お前の担任もすげー心配してたぞ。落ち着くまでは自由登校でいいってさ」
え、そこまで・・・?
確かに、SubΩは最も不安定なバース・ダイナミクスで、サブドロップしやすく死亡率が高いって言うけど・・・そんな簡単に倒れるの?
自分がそうなるとは思ってなかったしな・・・。
「俺、死ぬのかな」
「「そんな訳ないだろ!!」」
双子からの速攻マジレスにびくっとなり、マグカップを落としそうになった。
慌ててテーブルに置く。
そ、そんなに大声出さなくても・・・。
「そんな事言うなら、発情誘発剤使ってすぐにでも番にしちゃうよ?」
「もっと強いコマンド使って泣かせてやってもいいんだぞ?」
「ごっ、ごめんなさい、もう言いませんっ!」
何気なく、思い付いた事を口にしただけだった。
でも、双子の反応に、言っちゃいけなかったんだと気付く。
迷惑かけて、心配させて・・・反省しないと、かな。
・・・でも待って、発情誘発剤ってなに?
もっと強いコマンドとは?
恐いからやめて・・・。
「はぁー・・・今まで大事に大事にしてきたのに、ナオを傷付けたりなんかしないよ」
「それな。でもコマンドは増やす」
「えっ!?」
ナミの言葉に安心しかけたのに・・・。
増やすって、どんなコマンド?
それ、恐くないやつ?
「ナオ、Kneel 」
は?
なにそれ、俺は犬じゃね・・・。
「・・・ぁ・・・れ・・・?」
気付いたら、ソファに座るナギの足元にぺたんと座り込んで、ナギの顔を見上げていた。
なんだ、これ。
「上手にできたな。Goodboy 」
両手で俺の頭を撫でるナギ。
まるで飼い犬にするみたいに。
これ、怒っていいやつだよな?
それなのに、なんで・・・。
「・・・ん・・・っ」
俺、なに喜んでんの?
しっぽ生えてたら振ってたかもしれないって勢いで嬉しいんだけど?
「ナオ、嬉しそう。可愛い」
ナミが俺の後ろに下りて座り、背中から包み込むように抱きしめてくる。
いい匂い・・・ナミの匂い、安心する・・・。
「発情期、まだかな・・・楽しみだね、ナオ」
ナミが俺の頸に顔を寄せ、チョーカーの上からキスしたところで正気に戻った。
「俺は発情なんかしないーっ!」
俺はNormalβ、俺はノーマルベータ、俺はのーまるべーた・・・っ!
このままじゃ、ほんとに双子とエッチする日も近いのでは・・・と、ぞくりとした。
・・・このぞくっての、不安からだよな?
期待して、とかじゃない・・・よな・・・?
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