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第12話

さてと、どっちの部屋で寝ようかな。 茜霧(あかぎり)家の2階、ナギの部屋とナミの部屋のドアの間で考える。 「あれ、僕たちと川の字で寝るんじゃなかったの?」 「いや、冗談だから。俺、もう高校生だよ?」 「高校生だって子供は子供だろ?俺が子守唄歌ってやるって」 「いらないです・・・じゃ、おやすみぃ」 ハルカさんとソウマさんを(かわ)し、とりあえずナミの部屋に入る。 ・・・あ、ナミの匂い。 「・・・やっぱハルカさんたちの部屋行けば良かったかな」 いやいや、何言ってんだ。 寝るだけだろ。 意識すんな俺・・・。 茜霧家(こっち)来る前にパジャマには着替えさせられてたから、心を無にしてナミのベッドに潜り込む。 ・・・・・・いや、やっぱだめだ、ナギの部屋にしよう。 ナミの部屋を出て隣のナギの部屋へ。 ・・・ナギの匂い。 双子のくせに、匂いはちょっと違うんだよな。 嗅ぎ分けられる俺、キモくね・・・? 「くそ・・・双子め・・・」 青木家(うち)で寝てるであろう双子に悪態をつきつつ、ナギのベッドへ潜り込む。 ・・・・・・なんだろ、なんかそわそわする。 なんなんだろ、この感情・・・なんか・・・罪悪感? 「なんで・・・?」 なんで俺が罪悪感なんて抱かなきゃいけないの? 俺、別になんも悪くない、よね? これ、たぶん、ナミのベッドで寝ても同じなんじゃないかな・・・。 理由のわからない罪悪感がどんどん膨らんできて、不安感へと変わっていく。 ・・・・・・やばい。 「・・・わかった、こうしよう」 誰に言うでもなく言葉にしながら、ナギの枕を掴み、ベッドから出てクローゼットを開ける。 中には当然、ナギの服。 枕と一緒に両手でがさっと抱え込んで、ナミの部屋へ。 ナミのベッドにナギの枕と服をぶち撒け、ナギの部屋に戻る。 今度はチェストを開けて、中の服を抱えて、さっきと同じようにナミのベッドへぶち撒けて・・・廊下に何着か落として来たけど気にしない。 「・・・俺、何やってんだろ」 もしかしなくても、これ、巣作り・・・? ナミのベッドにナギの服を積み上げて、納得いくまで捏ね繰り回す。 あーあ、こんなぐちゃぐちゃにして、ナギに怒られ・・・ないか。 これくらいじゃ双子(あいつら)怒ったりしないし。 そもそも、双子に怒られた事なんて、少し前までなかった。 初めて本気で怒られたっぽかったのは、バース・ダイナミクス検査の翌日。 早退して、俺が思わず言った「死ぬのかな」って言葉に、双子(あいつら)は声を揃えて怒鳴った。 今日のが2度目。 俺以外の相手が現れるかもって言ったら、本気のグレアが返ってきた。 ・・・・・・グレア(あれ)、怖かったな。 双子も俺の事、怒ったりするんだって、ちょっとびっくりした。 どんだけ甘やかされてきたんだろ・・・。 「・・・ぅゔー・・・」 やっと出来上がった巣に潜り、双子(ナギナミ)の枕を抱いて唸る。 くそぉ・・・双子めぇ・・・っ! 「俺をこんなにしやがって・・・」 スウェットズボンのポケットに入れてたスマホを取り出し、双子とやってるチャット画面を開く。 双子(あいつら)のアイコン、アクティブになってる・・・あ、俺のアイコンがアクティブになった瞬間にメッセージ入れてきやがった。 「大丈夫?」「眠れないのか?」「迎えに行こうか?」「返事しろ」「具合悪い?」「どうした?」「返事して?」「そっち行く」と、怒涛の勢いで打ち込まれるメッセージ。 待てまて、来るな、ほんと、この状態を見られるのは困る・・・。 慌てて「へいき、くるな」と打ち込んだけど、2階へ上がってくる2人分の足音に、俺は巣の奥に潜って隠れる事しか出来なくなった。 「あれ、ナギの部屋開いてる・・・」 「俺の服が散らばってんだけど・・・まさか」 「僕の部屋だ」 廊下から双子の声がして、ナミの部屋のドアが開く音がする。 「これって・・・」 「巣作り・・・?」 終わった。 こんな姿を双子に見られるなんて・・・。 「ナオ?ねぇ、巣作りしてくれたの?」 「上手に出来てんな」 褒めるな・・・ふわふわすんだろ・・・。 「僕たちも入れて?一緒に寝よ?」 「ナオ、Come(おいで)」 ずるいぞ、コマンドで呼ばれたら、出て行かない訳にいかないだろ。 もぞもぞと巣から出て、ベッド横に立っている双子を見上げる。 ・・・・・・なんだよ、その嬉しそうな顔は。 「はぁ・・・可愛い・・・」 「Goodboy(いいこ)」 ベッドに入ってきた双子に、前から後ろから抱きしめられ、頭を撫でられキスされる。 ふわふわが止まらない・・・これ、サブスペースか・・・? 「巣作りしたって事は、発情期入ったって事か?」 「・・・ううん、まだちゃんとした発情期じゃないみたい。僕たちが側に居なくて寂しくなっちゃったんだよ。安心したかったんだよね、ナオ?」 安心・・・確かに、したかった。 片方だけの匂いじゃ足りなくて、両方の匂いがするように、巣、作った・・・んだと思う。 あと、片方だけだと、やっぱり罪悪感みたいなのして、双子が揃ってないと、俺だめかも。 「・・・りょ・・・ほお、いないと・・・だめ」 「僕とナギ、両方居ないとだめなの?」 「あ、それでナミのベッドに俺の服積んだのか」 そうです。 「ぐちゃぐちゃにしちゃった・・・怒る?」 「怒んねぇよ」 「あ、枕も持ってきたの?僕のと一緒にぎゅってしてるの、可愛い・・・けど」 ナミが俺から枕を取り上げようとする。 おい、なにすんだよ、やめろ、俺んだぞ! 「やぁだぁ・・・っ」 「ふふっ、枕じゃなくて僕にぎゅってしてよ」 ・・・・・・そっか、本物が居るならそっちの方がいいか。 枕を放し、ナミにぎゅっと抱き付く。 うん、こっちのがいい。 「俺にも。ナオ、Hug(だきしめて)」 あ、コマンド聞く前に抱き付いてしまった・・・。 失敗? 褒めてくれない? 「ナオ、いまフライングしなかった?」 「コマンド先読みするなんて、可愛いやつだな。Goodboy(いいこ)」 良かった、褒めてもらえた。 前にはナギ、後ろからナミに抱きしめられ、ふわふわが止まらない。 これ、いいかも・・・ちょっと狭いけど・・・あったかいし・・・このまま寝・・・。 「・・・そろそろ日付変わるんじゃね?」 「・・・あと30分だよ」 「・・・・・・日付変わってもシないからなっ!お前らも寝ろ!じゃなきゃほんとにハルカさんとソウマさんと寝る!」 「「はーい」」 不穏な動きを見せた双子が大人しくなった。 ソウマさんとハヤテさんに言われた通り、こっちがシたくない時ははっきり、毅然とした態度で接する事が大事みたいだ。

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