13 / 15

第13話

「ナオ、体調は大丈夫?」 ナミの掌が俺の額を撫でる。 ちょっと冷たくて、気持ちい。 「ブレザーだけじゃ寒いんじゃねぇの?俺のカーディガン下に着とけ」 制服のブレザーの下に着てた自分のカーディガンを脱ぎ、俺のブレザーを脱がせてからそのカーディガンを着せ、ブレザーもきちんと着せてくれるナギ。 あったか・・・ナギの匂いする・・・袖余るのムカつく。 「あ、ミルクココア味の飴買っておいたよ」 俺が好きな、ちょっと高い飴だ。 俺に持たせるとすぐに全部食っちゃうから、ナミが隠し持ってるやつ。 「ナオ、くちOpen(あけろ)」 ナギのコマンドでぱかっとくちを開ける。 まあ、コマンドじゃなくても、飴欲しいから開けるけど。 「んん・・・やっぱこの飴うまぁ・・・ほら、双子(お前ら)もう自分たちの教室行けって」 今日の双子(ナギナミ)はいつもより更に執拗(しつこ)く世話を焼いてくる。 とっくに予鈴鳴ったぞ。 「少しでも具合悪くなったらちゃんと連絡しろよ?」 「ん」 「ほんとに大丈夫?」 「ん」 双子が心配してる理由はわかる。 昨日の双子の暴走で俺が疲弊してるから。 まあ、あの後は普通に寝たし、なんならいつもより快眠だった。 双子に挟まれて寝たからか、俺が疲れ切っていたからかはわかんないけど・・・。 「はよ、青木(あおき)」 「はよ、須藤(すどう)」 いつも通り、双子が教室を去ってから声をかけてくる須藤。 そんなに双子が恐いのか? 「昨日、あの後ナニかあった?」 「察してんなら聞くな」 昨日、双子が美術準備室に現れたのは須藤(こいつ)差金(さしがね)だったらしい。 俺と宍戸(ししど)が教室を出た後すぐやって来た双子に、須藤が「青木が美術部員に(さら)われた」と伝え、双子はダッシュで追いかけて来た、と。 一応、すぐには準備室に入らず様子を伺おうとして、宍戸の「お兄ちゃんに会おう?きっと好きになるよ!」って言葉にぶちギレて突入しました、とか双子が言い訳してた。 「そういや、宍戸は?あいつ大丈夫だった?」 「ああ、大丈夫。ふらふらしながら教室戻って来て、茜霧先輩たちのグレア浴びちゃったーとか興奮しながら話してたし」 「なんだそれ・・・」 心配して損した。 そういや、宍戸ってNormalβだったっけ? グレアで体調悪くなるとかはないのかもな。 「で、青木は妊娠でもしたのか?」 「にっ!?してねぇよ!」 「そっか。茜霧兄弟の過保護が加速してたから、てっきり孕んだのかと」 「黙れ・・・」 妊娠だの孕むだのと、恥ずかしい事言ってんじゃねえよ。 発情期来てないし、1回で妊娠なんかする訳ないだろ。 ・・・・・・いや、1回ではなかったけど。 俺、大丈夫だよな・・・? 高1で妊娠とか・・・さすがにないだろ・・・。 そんな事を考えてたら、もやもやと不安感が膨らんできた。 やば・・・これ、ほっとくと頭ぐらぐらしてきて倒れるやつだ・・・。 授業は始まっていたがやむを得ず双子に連絡をする事にした。 いつものチャット画面を開く。 さすがに双子(あいつら)のアイコンはアクティブになってない。 授業中に連絡すんの初めてだけど、双子(あいつら)ちゃんと反応すんのかな・・・。 机と膝の間で、とととっとスマホ画面をタップしながらメッセージを打つ。 とりあえず「なんか不安」と。 メッセージが相手に送信されて約2秒後、双子のアイコンがアクティブに。 メッセージ送っといて言うのもなんだけど、双子(お前ら)ちゃんと授業に集中してないだろ。 「わかった」「すぐ行く」と返信があり、俺はそれだけで少し気分が改善された。 反応があるだけで良かったのに、わざわざ来なくても・・・。 ───コンコン あ、来た、(はや)・・・。 「「失礼します」」 教室に入り、教師と少し話してから俺のとこへ来る双子。 鞄持ってる・・・って事は、このまま帰るつもりか。 あー・・・連絡したの、大袈裟だったかもな・・・。 「ナオ、Come(おいで)」 「帰ろうね」 ごめん、ちょっと連絡してみただけなんだ。 そんな、早退する程、体調悪い訳じゃない。 でも、連絡したら双子(ふたり)が来るってわかってたのに、連絡しちゃった。 おいでって、コマンド出されてるのに、身体が動かない。 双子のとこに、行く資格がない、みたいな気がして、立ち上がれない。 せっかく来てくれたのに、俺、なにやってんの。 あ、やばい、なんか、どんどん申し訳なくなって・・・。 「「ナオ!?」」 俺の視界は暗転した。 ─────── 頭が痛い。 寒い。 でも・・・手だけあったかい・・・。 「・・・ん・・・」 「ナオ?」 「目ぇ覚めたか?」 どこだ、ここ? やたら景色が白い・・・病院? 「おれ・・・」 「学校で倒れたんだよ」 「ごめんな・・・サブドロップなんかさせて・・・」 ああ、俺、サブドロップしたんだ。 ナギ、そんなしょんぼりすんなよ。 ナミも、泣きそうな顔すんなって。 「ねぇ、ここ病院?」 「そうだよ。検査した病院」 バース・ダイナミクスのか。 ここまでどうやって来たんだろ。 まさか、救急車とか・・・恥ず・・・。 「救急車には乗ってねぇぞ。養護教諭(保健室の先生)の車で来たんだ」 あ、そおなんだ、良かった・・・いや、先生に迷惑かけたな。 今度謝りに行かないと・・・。 「車からベッド(ここ)までは、僕が抱っこして来たよ」 「・・・そりゃどーも」 「帰りは俺が抱っこしてやる」 「自分で歩くって・・・」 さっきから唯一あったかい手は、ナミとナギに握られてる。 もっと・・・あったかいの、欲しい。 「起こして・・・」 「起きて大丈夫?」 「まだ横になってろよ」 過保護加速中の双子。 今は横になってるより、必要な事があんの。 「起こせってぇ・・・」 「はいはい。ほら、これでいい?大丈夫?」 「なあ、無理すんなって・・・」 「ん!」 「「ん?」」 ナミに起こしてもらい、両手を双子に向かって広げる。 双子はなんだかわかんないみたいで、少し戸惑ってた。 ・・・おい、わかるだろ、なにして欲しがってるか。 「・・・なあ、これって」 「・・・抱っこの催促(だっこだっこ)、だよね?」 「まじか!ナオのだっこだっこ、何年ぶり?」 「10年ぶり!またしてくれるなんて嬉しい・・・」 なに盛り上がってんだよ。 いいからさっさと・・・。 「ナオぉ!可愛い!」 「ほんとごめんな、不安にさせて!」 双子にがばっと抱き付かれ、俺は身動きがとれなくなる代わりに、欲しかった温もりを手に入れた。 ・・・はぁ・・・やっぱ落ち着くな・・・これ。 俺がふわふわしてきて、ちょっと体温上がってきた頃・・・。 「失礼します、青木さんどうです・・・か・・・」 「・・・・・・っ!?」 「「あ、先生」」 担当医に恥ずかしい所を見られ、俺の日帰り入院はいろいろ、終わった。

ともだちにシェアしよう!