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第17話

「はよ。大丈夫か?」 「はよ。まあ、大丈夫、今は」 月曜の朝。 いつも通り双子(ナギナミ)と登校し、ギリギリまで世話を焼かれ解放されたところで、これまたいつも通り()(どう)が声をかけて来た。 「まじ焦ったぞ。目の前でサブドロップで人が倒れんの初めて見たわ」 「俺も初めてだわ」 2人ではははと笑っていたら、クラス委員が黒板に大きく「自習」と書いた。 え、月曜の1限からいきなり自習? 高校入って初の自習だ。 何しよう・・・って、プリント配られたし。 結局勉強すんのか・・・。 「なあ、青木(あおき)」 「ん?」 わざわざ俺の方に机を向けて、プリントに書き込みながら須藤が話しかけてくる。 俺もプリントに書き込みながら、返事した。 「スマホは常に手元に置いとけよ」 「・・・んな心配しなくても大丈夫だって。とりあえず不安の原因は解決?したし」 「そっか、ならいいけど」 「須藤(お前)って優しいなー」 「まあな」 「謙遜しろ」 「俺さ、彼女出来た」 「は?なに急に?なんで急に彼女出来た報告?」 「お前が倒れて大変だったのに、彼女出来てごめんって報告」 「謝ってんじゃねえよムカつくな」 「お前は彼氏が2人も居るじゃん。あ、違った、旦那が2人もいるじゃん」 「まだ結婚してねえし」 「・・・まだって事は、するのは決定してんのな」 「・・・らしいな。あ、なあ、須藤って将来の夢ってなんだった?ほら、小学校の卒業文集に書いたやつ」 「将来の夢ぇ?あー・・・プロバスケ選手?」 「お前、バレー部じゃん」 「人生いろいろだよな。青木(お前)のは茜霧(あかぎり)兄弟の嫁とかじゃなかったっけ?」 「ちげーわ。ナギナミにやしなってもらう、だ」 「同義だろ」 「小学生の頃の俺、双子に完全に洗脳されてたからな」 「洗脳って・・・どう見てもお前が茜霧兄弟を従えてただろ。給食に出た嫌いなもん、2人に食わせてんの見たぞ」 「双子(あいつら)が率先して食ったの。俺にひと口食わせてからだけど」 「茜霧兄弟さ、青木の奴隷って呼ばれてたんだぞ」 「はあ?なにそれ、誰が言ってた?」 「お前の世話を甲斐甲斐しく焼くの見てりゃ、誰だって言うだろ」 「さすがに奴隷は酷くね?召使いにしといてやれよ」 「それも同義では?」 あー、俺、(とい)3でさっそく躓いてんだけど。 須藤は・・・え、もう半分書き終わってんじゃん。 「召使い扱いでもいいけどさ、ほんと、ちゃんと2人に頼れよ。んで、ちゃんと幸せになれ」 「・・・なに、どした?」 「青木(お前)が幸せになんないと、俺が報われない」 「は?どーゆう意味・・・」 「応援してるって事」 「・・・ああ、そりゃ、どーも」 ほんと、須藤って優しいな。 小1で初めて会った時から、双子に絡まれてる俺を気にかけてくれてたし。 そういや、こいつも幼馴染ってやつだよな。 双子のせいで学校で、尚且つ同クラの時しかつるんではなかったけど。 「須藤(お前)も彼女と幸せにな」 「・・・そりゃ、どーも」 ─────── 何事もなく放課後になり、教室で双子を待っていた。 ・・・あれ、遅いな、珍しい。 「一緒に待っててやろうか?」 「いいよ、すぐ来るだろうし。須藤(お前)は部活だろ?頑張れぇ」 「おー。じゃーな」 とは言ったものの、別に待ってる必要もないんだよな。 いつも双子(あいつら)が勝手に迎えに来て有無を言わさず連行されてるだけで、一緒に帰ろうって約束してる訳じゃない。 双子と学校かぶってなかった小6と中3の時は、普通にひとりで登下校してたし。 「たまにはひとりで帰るか」 鞄持って席を立ち、下駄箱へ向かう。 正門を出て駅の方へ向かい歩いていたら、後ろから声をかけられた。 「青木くん」 「え・・・あ、宍戸(ししど)?」 うわ・・・あんま関わりたくないヤツに声かけられちゃったな。 「なんか用?」 「ひとりなの?先輩たちは?」 「いや、別にいつも一緒って訳じゃねぇし」 「そっか・・・あ!お兄ちゃん!」 宍戸が俺の後ろを見て、ぱっと手を挙げた。 ・・・え、お兄ちゃん? それって、まさか・・・。 「悠真(ゆうま)、迎えにきたぞ。あれ、友達?」 「うん、クラスメイトの青木くん」 宍戸の隣まで来た、他校の制服を着た宍戸兄に、宍戸が笑顔で俺を紹介する。 頼むから、余計な事言わないでくれよ・・・。 「青木・・・って、悠真が言ってた、SubΩの?」 他人(ひと)の個人情報を勝手に話してんじゃねぇよ・・・。 俺の前に立った宍戸兄は、双子と同じくらいの高身長。 恐るおそる見上げると、ムカつく程のイケメンが優しく微笑みかけてきてた。 「・・・っ、どぉも。じゃ、俺、帰るんで」 「待って。ひとりじゃ心配だから、送るよ」 俺の進行方向を塞ぐように立ちはだかる宍戸兄。 いや、なんでだよ。 弟を迎えに来たんだろ? 「いーです、近いんで・・・」 「遠慮しないで。金曜に、サブドロップで倒れたって聞いたよ?少し話もしたいし、ね?」 そんな事まで話したのかよ? ほんと、余計な事ばっか・・・って宍戸弟を睨んだら、なにを勘違いしたのかにこっと笑って言った。 「あ、僕の事は気にしないで!お兄ちゃんに送ってもらいなよ」 「いや、だから・・・」 「じゃ、行こうか」 宍戸兄の有無を言わさぬ圧に負け、俺はとぼとぼと駅に向かって歩き出した。 宍戸兄は俺の横にぴったり並んで付いて来る。 「DomβとNormalαの彼氏がいるんだってね」 彼氏とか恥ずかしい事言うなよ。 咄嗟に否定しそうになって、思い(とど)まる。 宍戸兄(こいつ)には、双子が俺の相手だって、ちゃんと言った方がいい。 「まぁ・・・そうです・・・」 「そっか」 少しの居た堪れない沈黙の後、宍戸兄がまた口を開いた。 「君の事、悠真・・・弟から聞いた時は、運命だと思ったんだけどな。君にとっては違ったみたいだね」 「ぅ・・・運命?」 「DomαとSubΩだよ?お互いが、お互いのために存在してるって思わない?」 思わない。 俺には、生まれた時からずっと、双子が居るし。 それに・・・。 「そっちも、俺に会って、運命なんて感じてない、ですよね」 「・・・まあ、そうだね。お互い、なんか違ったみたいだね」 宍戸兄からは、なにも感じない。 ナギみたいに、強力な磁力みたいなので引っ張られる感覚もない。 ナミみたいに、俺の全身にフェロモンを纏わり付けてもこない。 やっぱり、双子(あいつら)だから、俺はずっと一緒に居たんだ。 「一応、求愛フェロモン出してるんだけど、伝わってないね。君のDomとαには敵わないみたいだ」 え、フェロモンとかやめてよ。 後で双子にバレたら・・・。 「「ナオ!!!」」 聞き覚えのあり過ぎる、声。 振り返るのが恐いんですけど・・・。 「ナオ!Come(おいで)!」 「僕たちのナオだ!近付くな!」 「ちょ・・・っ」 ナギに抱きしめられ、ナミが俺と宍戸兄の間に割って入った。 おい、駅前(こんなとこ)で騒ぎを起こすなよ? 「彼氏たちが迎えに来たみたいだね。それじゃ、俺は退散するよ」 宍戸兄は、双子の威嚇(グレア)に怯む事なく、爽やかに微笑んでから立ち去って行った。 ・・・さすがDomα。 「ナオ、大丈夫!?何かされなかった!?」 「あいつにコマンド使われたのか!?従ったんじゃねえだろうな!?」 「ち、違う、違うって!大丈夫だからっ」 なんとか双子を落ち着かせ、それでも両手をがっちり恋人繋ぎにされて、俺は双子と青木家(いえ)へ帰る事になった。

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