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推しは生だと輝きすぎてる

屋敷に着くと、使用人が屋敷の入り口で出迎えてくれた。 「お待ちしておりました。ネイト様は執務室でお待ちです」 中に通される。屋敷の中は美しい調度品がシンプルにまとめて飾られており、ネイトらしいと感じる。 「こちらです」 「失礼します」 使用人が執務室の扉を開けてくれる。 緊張と高揚感に襲われながら、ノエルは執務室へと足を踏み入れた。真紅と瑠璃色の左右色の違う瞳と目が合う。後ろで無造作に結われた長い黒髪が、ネイトが立ち上がったことで揺れた。  「本当に来たのか」 まるで珍獣でも見ているような表情だ。 それもそのはず。ネイトはエアリスと、友人であるフェイブル意外の人間を信じていない。魔族の血が混ざっているという理由で、周囲から浴びせられる心無い言葉や視線のせいで、人間不信に陥っているからだ。 もしかすると、忌み嫌われいるネイトの元に、ノエルが本当に嫁いでくるとは思ってもいなかったのかもしれない。 「ノエル・シモンズといいます。初めまして」 ペコリとお辞儀をする。顔を上げると、先程までの表情は消えていた。 それにしても顔がいい。クールなキャラだからか、どこか冷たさすら感じた。けれどエアリスを一途に愛する心の温かさがクールさと相まって、最高のギャップを生み出している。 「初めに言っておく。私にはなにも期待はするな。生活に必要な物は与えてやる。だが、それ以上のものを与えてやることはできない」  冷めた瞳にノエルへ向けられる感情など一つもない。けれど、ノエルにとってはこの瞬間、ネイトと会話をしているだけでも充分過ぎるほどの褒美だ。それにネイトの心がエアリスに捧げられていることは知っている。 ノエルはネイトに初めからなにも求めるつもりなどない。ただ幸せになってほしい。唯一求めるとするのならそれだけ。 「かまいません!ネイト様と話せるだけで俺は幸せですから!」 満面の笑顔で食い気味に答えると、ネイトが若干頬を引きつらせる。そんなことはお構いなしに、ノエルはなおも言葉を続ける。 推しを目の前にして、オタク心による興奮を押さえられない。 「俺、本気で貴方に会えて嬉しいです!ネイト様以上に素敵な人を俺は知らないから」 「世辞はやめろ。会ったこともないだろう。用意している部屋へ戻れ。それから、私の部屋には来るな。特に夜はな」 背を向けられて、残念に感じる。 もっと話していたかったけれど、これ以上は会話を続けてもらえなさそうだ。渋々執務室を出る。 「お部屋にご案内いたします」 待機していた使用人の後ろを付いて部屋へと向かった。何度かゲーム内で見たことのある風景に遭遇して、頬が緩む。バレないように真顔に徹しながら、ノエルはこの先どのような生活が待っているのかと胸を踊らせる。 「こちらです」 「えっ、ここが俺の部屋ですか!?」 「お気に召しませんでしたでしょうか」 「いやいや!すごい綺麗だし広いし、嬉しいです!」 「そうですか。なにかあればお気軽にお申し付けください」 お辞儀をして去っていく使用人。その姿を見送ってから、ノエルは部屋の観察を始める。実際に触れてみて、ようやくこの場所が現実なのだと実感できた。 ネイトと話をすることができただけで夢のようだ。冷たい態度も、エアリスのことを思っているのだと知っているからか可愛く思えてくる。 けれど辛そうにも見えたのは、ノエルの勘違いではない。ネイトはエアリスの結婚式に参列したはずだ。それがどれだけ辛かったのか想像もできない。 「よーーし!こうなったら俺がネイトを幸せにするしかないよな!」 方法はわからない。それにノエルの気持ちは推しを見守るオタクのそれだ。だからネイトのことを恋愛対象として見ているかと聞かれると違う気がする。 前途多難だと思いながらも、ノエルの心は物凄く晴れやかだった。

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