fujossyは18歳以上の方を対象とした、無料のBL作品投稿サイトです。
私は18歳以上です
優しくなりたい 第3話 ☆ | 海鳴ケイトの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
優しくなりたい
第3話 ☆
作者:
海鳴ケイト
ビューワー設定
3 / 19
第3話 ☆
律
(
りつ
)
は、一コ上で美大に通っていて専攻は銅版画で、この春知り合いの紹介で知り合って何回か会っているうちになんとなくつき合うことになったのだったが、三上にしてはめずらしく長く続いていた。スレンダーで女おんなしてなくて、ブランドや人混みや流行りものやアウトドアを好まなくて、あんまりセックスしなくても文句を言わなかった。 自分と似ているのかもしれない、と三上は思う。似ているからきっと、一緒にいても疲れないのだろう。 「三上くん」 そんな律が、突然訊いた。三上の一人暮らしのマンションのリビングのソファに並んで座って、三上は雑誌をめくっていて律はお気に入りの写真集を眺めていた。 「あたしのこと、好き?」 三上は、たじろいだ。 同じセリフはこれまでもつき合ってきた相手に何度だって言われたことがある。その都度、三上は適当に受け流してきた。 しかし今の律の言いようは、怒っているのでも拗ねているのでも甘えているのでもなく、平時の表情でまっすぐに三上を見つめていて、だから三上は何やら混乱して、好きって何だ? と思ったりした。 「……あったり前じゃんか」 そう、とだけ律は言って、弱々しく笑った。その弱々しさに胸が痛んで、三上は律を抱き寄せてキスをした。そのまま、久しぶりにセックスをした。久しぶりだったせいか、律は少し痛がった。 丁寧にしないと、痛いんだよ。 そう教えてくれた人のことを思い出す。 三上が初めてつき合った相手は高一のときのクラスメイトだった。
江藤槇子
(
えとうまきこ
)
という快活で気安い物言いのできる女子で、席の近い複数人の男女で軽口をたたきあっているうちに親しくなり、二学期に入ってすぐ、つき合うとかってどうかな、と不意打ちのように告白された。当時は三上もまだ、つき合うということに多少の好奇心と憧れを抱いていたので、さほど迷いもせずに応じた。 ところがつき合い始めたとたん、二人きりになると槇子は普段の威勢のよさが影をひそめ、やけにしおらしくふるまったりするので三上は戸惑った。皆といるときのように気軽な会話をしたかったが、槇子のほうは特別な空気を共有したがっていて、そうすると三上も意識しないわけにいかなくなり、最初のうちこそこれがつき合うということかと槇子のペースに合わせる努力をしていたが、だんだん面倒になってきた。槇子といるより男子と遊ぶほうがよほど面白かった。 好奇心にかられてそんなムードになったときキスもしてみたが、恥ずかしげにうつむく槇子に対してそれ以上の欲求もわかず、逆に申し訳ない気分になった。 お互い誕生日は過ぎていたので助かったがクリスマスは避けて通ることができす、友人と騒いで過ごしたかったのに義務のような心持ちで槇子と会ったせいで些細な事から口論になり散々だった。それでも我慢して日々をやり過ごしたが、結局二年に進級するさいのクラス替えを機に別れを切り出した。 槇子と別れてひと月も経たないうちに、ほとんど面識のない隣のクラスの女子に告白された。前から好きだったけれど彼女がいたから諦めてたの、と言われて驚いた。ろくに話したこともないのにどうして好きになんてなれるのだろう。 そうは思ったけれど、槇子のときはつき合う前と後の変化を受け入れられなかったのであって、まるで知らない子ならば大丈夫かもしれない、とつき合うことにした。しかし、知らないほうが面倒だった。 その子はやたらと一緒にいたがるタイプで、休み時間のたびに会いに来るし毎日一緒に帰ろうとする。三上は友人とも話したり遊んだりしたかったし、彼女が来たぞとはやしたてられるのにも辟易した。何より、三上と話したことや起きた出来事を仲の良い女子に吹聴しているのにはうんざりした。 それで、二か月足らずで別れた。これには一部の女子から反感を買った。見当違いの文句を言ってくる女子もいたが気にしなかった。ただめんどうくさいなと思った。 夏休みには中学のときの友人の紹介で一コ下の女子高の子とつき合って、夏休み中に別れた。休み中のことだったのでバレないだろうと思っていたがどこからか情報が洩れ、二学期が始まったときにはすでに女癖が悪いという評価が三上に定まっていた。 本当に、めんどくさいと思う。それに、つき合うとか彼女とかって、意外とつまらない。 そんなとき、
比百合
(
ひゆり
)
に会った。 屋上へ上がる扉は普段鍵がかかっているが、火曜と金曜の五時間目だけはなぜか開いていた。偶然それを知った三上は、時々授業をさぼって屋上にいた。給水塔のコンクリでできた土台にもたれて座り、ぼんやり空を眺めていることが多かった。 その日、いつものようによく晴れた空を薄い雲がゆっくり流れてゆくのを見るともなしに見ていたら、突然何かが落ちてきて三上は声をあげた。 目の前に転がったのは上履きの片方だった。 振り返って見上げると、頭上の高いところに腰かけた女子生徒のすらりとした脚がふらふらと揺れていた。靴下を履いた生足で、白い柔肌を惜しみなく陽光に晒している。 唖然としていると、脚の間から小さな顔が覗いた。 「君、よく来てるよね」 薄い唇がきれいな曲線を描く。屋上の鍵が開いているのは彼女の仕業に違いないと三上は察した。 返答を探しているうちに、彼女は錆びた梯子を下りてきた。三上の目の前に立ち、覗きこむように腰をかがめる。少しキツめだが整った顔立ちで、華奢なわりに妙な威圧感があった。軽やかな声で訊いてくる。 「何してんの?」 「……さぼってる」 「どうして、さぼってるの?」 「……さぼりたいから?」 「どうして、さぼりたいの?」 ちょっとめんどうくさいな、と三上は思う。胸元のバッジを見ると上級生だった。屋上特有の強い風に、彼女の高い位置で結わえた長い髪がたなびく。 「いい天気だから」 そう答えると、彼女はつかのまわずかに目を細め、静かにまた唇に弧を描いた。 「悪くないけど、今イチ。でも、そうね、好きかも」 彼女は膝をつき、次いで、三上の立てた膝の間に入ってきて両脇に手をついた。小さく、そして整った顔が目前に迫る。 「は? 何」 「ねえ、セックスする?」 変なのにからまれた、と三上は眉根を寄せた。やばいやつだ。こんなの、逃げたほうがいいに決まってる。頭の中では警報が鳴っているのに、体が動かない。 固まったままの三上に彼女の顔が近づき、新月にほど近い三日月のような唇がわずかに開いたと思ったらもう、重なっていた。 ためらいなく侵入してきた舌が、無防備な三上の舌を絡めとる。そう間を置かず、三上は酩酊した。 初めての感覚だった。解放されたときには息が上がっていた。反応の始まった股間に手を添えられ、頬が熱くなる。囁き声が耳朶をくすぐる。 「しよっか」 学校を抜け出して、近くだという彼女の家に行った。昼間は誰もいないから、と彼女は自室に入るなり制服を脱ぎ始めた。三上は潔く告白する。 「あの俺、したこと、ないんだけど」 乳房をあらわにしたまま、彼女は三上の制服を脱がしにかかった。 「じゃあ、教えてあげるね」 彼女はとても慣れていた。最初から最後まで三上をリードした。どんなときにどんなふうに触れればよいのか報せてくれた。立ち上がった三上の性器にゴムをつけてくれた。 「初めての女の子が痛いっていうのはね、全然濡れてないうちからバカな男が突っこもうとするからなの」 ほらね、と彼女が三上の指を導いてくれる。 「優しくさわってね。女の子は、丁寧にしないと痛いんだよ」 そう教えてもらったはずなのに、今に至ってもなお、その忠告に三上はあまり従っていない。 どうしてだろう。 簡単なことなのに。 優しくねえなあ、と思う。誰に対しても。 どうして優しくできないのだろう。 初めてのセックスを終えたあと、ベッドに寝転ぶ彼女の生白い背中に訊いた。 「先輩って、誰とでも寝んの?」 彼女は顔だけを向けて、気怠げに笑った。 「真面目なんだね」 「……別に、悪いって言ってるわけじゃないけど」 「そうじゃなくって。先輩、なんて」 「じゃ、何て呼べば」 「名前で」 「名前、何」 「比百合」 それから時々、三上は比百合と会ってセックスをした。時々だったけれど、どこからか噂になった。冷やかしてくる男子を適当にあしらっていたら、江藤槇子が忠告にきた。 「三年の先輩とつき合ってるんだって?」 はたして、つき合っているというのだろうか。答えあぐねて、三上は否とも応とも言わずにいた。 「……あの人、なんかよくない噂あるみたいだよ。やめといたほうがいいんじゃないかな」 わざわざそんなことを言いにきた槇子を、うざったいとは思わなかった。嫉妬や腹いせのために行動するような性格でないことは承知している。心配してくれているのだろう、と三上は素直に受け取った。 「……サンキュー」 槇子は急に頬を赤らめ、かと思うと怒ったように、ばかじゃないの、と言い捨てていなくなった。 比百合の相手が自分だけではないことくらい、三上にもわかっていた。だからどうということもなかった。比百合とのセックスはひどく気持ちがいい。それ以上でもそれ以下でもない。 今もって、あのときほど気持ちのいいセックスはしていない。何が違うのかはよくわからない。三上が優しくないからだろうか。比百合のようには誰も教えてくれないからだろうか。 比百合は卒業を待たずに退学した。妊娠したからだった。三上の子ではない、と、それは本人から直接連絡があった。そして、三上もよく知る若い教師の名をあげ、 「あいつとやるときだけ、ゴムに穴あけてあったから」 と怖いことを言った。 比百合とはそれきりだ。
前へ
3 / 19
次へ
ともだちにシェアしよう!
ツイート
海鳴ケイト
ログイン
しおり一覧