豪勢だった昼食と違って、一階のカフェレストランで食べた夕食はいたってシンプルなものだったが、ナオはやっぱりたいそう嬉しそうだった。 　案外メニューは豊富で、散々迷ったすえ、ナオはミックスフライ定食を選んだ。皿の中央にのった有頭の立派なエビフライにほくほくしていたが、三上のハンバーグ定食が運ばれてくると物欲しそうに視線をよこした。 「半分やろうか？」 　三上の提案に、ナオは目を輝かせる。 「ほんと？　じゃ、おれのも半分あげるよ。先生、どれがいい？」 「じゃ、エビフライ」 「え」 　ナオが、わかりやすくはっとする。それでも、あまりためらわずに、 「い、いいよ」 　そう言って皿を差し出してくるので、三上はこらえきれずに笑った。 「嘘だよ。冗談だよ。いらねえよ。そっちの二個あるやつ、カキフライか。それ一個くれ。あと、クリームコロッケ」 「いいの？　別にエビフライでもいいよ」 「だから冗談だって。ほら、ポテトもつけてやるよ」 　ナオの皿に等分にしたハンバーグと付け合わせのポテトを放りこんでやると、遠慮がちだった表情を緩ませようやく素直に喜んだ。 「おれ、一番好きな食べもの、エビフライなんだよね」 「へえ、一番好きなやつ、俺にくれようとしてたのかよ」 「先生にだからだよ。他のやつには絶対やんない」 　ふうん、と三上は答えた。三上のからかいに対するナオのこういう返答には慣れたつもりだったが、不意をつかれると不覚にも胸がうずきそうになる。 「先生はさ、好きな食べもの何？」 「そうだなあ。特にねえけど、まあ、肉かな」 「肉？　そういえば先生、前もしょうが焼き食べてたもんね」 「よく覚えてんな」 「だって、初めて一緒に外でごはん食べたからさ」 　言いながら、ナオはエビフライをしっぽ側からぱくりとかじった。 「え、しっぽ食うの？」 「うん。おれ、このパリパリしたの好きなんだ」 「大人じゃん」 「何言ってんだよ」 　ケラケラと笑って、あ、ポテトもうまい、うまいよ先生、と口いっぱいに頬張っている。 　三上も覚えている。ナオも、三上と同じしょうが焼きにする、と言ったのだ。まだ一年も経ってない。それくらい覚えている。 「やっぱちょっと食わせろ」 　三上はナオの食べかけのエビフライを奪って、ひとくちかじった。 「お、うまいな。おまえこれ、このデカい頭も食べんの？」 「……これはさすがに」 　ほい、と三上がナオの口元にエビフライを差し出すと、あむ、とかじって受け止めた。 「冷めねえうちにさっさと食おうぜ」 　ぽかんとしたナオをよそに、三上はハンバーグとライスを一緒に口いっぱいかきこんだ。