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第6話

 ショッピングモールでのライブで自信をつけたのか爽と銀太も練習に参加するようになった。三人でのフォーメーションを難易度の高いものに変更しても難なくやり遂げ、めきめきと頭角を現している。  三人はスポンジのようにどんどん実力をつけてくれる。  そうなるとあれもしたい、これもしたいと話し合いを重ねてどんどん高みへと跳んでいけた。まるで膨らませた分だけ遠くまで飛んでいける風船のように三人は大空へと向かっている。  時間はどれだけあっても足りない。  ずっと踊りっぱなし、歌いっぱなしだったので喉が渇いた。タオルを頭からかぶりスポーツドリンクを煽ると身体の芯が通るような気がする。  スタジオの時計を見て、慌てて身支度をしていると葉月と爽が寄ってきた。  「じゃあ俺は行くね。ちゃんとダウンしろよ」  「また会食ですか?」  「最近多くない?」  「ホトスプ売るためだから仕方がないよ」  そう言い残して、スタジオを出て階段を下りる。  三人の手前ではプロデューサーやスタジオの店長たちと親睦を深めるためとは言っているが、実際は枕営業だ。  この世界は欲に塗れている。  自分がまたこの世界で枕をしていると聞きつけて、かつて関係を持ったお偉いさん方から直々に連絡がくることが増えた。  寝る代わりにホトスプを売る。  今度は周りにバレないように慎重に行動していた。会うときはホテルに別々で出入りして、中で落ち合う。他言はしない。  お互いの立場を守るためなのだからお偉いさん方は総じて約束を守ってくれて助かる。 いまのところ誰にも気づかれていないはず。  (これでいい。俺にはこれしかない)  けれどふと足が止まる。  葉月たちと次の新曲の振りを考えたり練習をする時間がとても楽しく充実しているのに、裏ではベッドの上でにゃんにゃん鳴く汚れた行為をしている。  自分から始めたくせに、時折胸を掻きむしりたくなる衝動に駆られる。  もしバレたらまた誰かの人生を歪めてしまう。葉月たちの未来は自分の手が握っているのだと思うとその大きさに投げ出したくなってしまう。  快楽を求めればいいだけのセックスが、いつのまにか人生を決める方位磁針に変わっていた。  昴の行動一つで行く先が変わる。天国か地獄か。はたまたその場から一歩も動けないままなのか。  葉月に悲しい思いをさせるわけにはいかない。あれほど実力があるのだから、絶対に花は咲く。自分の行為はその肥料だと思えばいい。  決意を新たにして歩き出すと「昴さん!」と声がして、階段の上に葉月の姿があった。  「なに?」  「明後日オフですよね? よかったら出かけませんか?」  「買いだし?」  三人暮らしの寮生活の家事は週ごとに持ち回りが変わる。確か今週は葉月が食事担当だった。  「ちょっと付き合ってもらいたいところがあって」  「別にいいけど」  「やり! また連絡しますね」  葉月はにこにこと手を振ってくれる。  「気をつけていってらっしゃい」  「……いってきます」  慣れない言葉を噛み締めて、昴は薄汚れた世界へと向かった。

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