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第8話

 「これはどういうこと?」  引き攣った笑顔の芦屋にパソコン画面を見させられて言葉がでなかった。  画面には「Z―UP」の曲が流れるよう編集され、音楽に合わせて踊っている昴と葉月の姿が映っていた。  ライブ帰りに葉月と踊っていたところを動画に撮られていたらしく、あろうことかSNSで拡散されてしまった。  しかも万バズしており「このイケメン二人組は何者?」と話題になり、特定班がホトスプの葉月のプロフィールを紐付けさせていた。  そのおかげもあってSNSのフォロワーが一万人に増え、いまも数字は伸び続けている。  予想していなかった騒ぎに頭を下げた。  「すいません。まさか撮られていたなんて」  「肖像権とか著作権とか色々問題はあるけどよくやってくれた!」  芦屋に肩を揺さぶられ、視界が回って気持ち悪い。やんわりと手を制したが興奮冷めやらぬ芦屋は鼻息を荒くさせた。  「これで一気にスターダムだね!」  「それはどうでしょう」  無料で見られるSNSと違い、ライブに行ったりCDを買うとなるとお金がかかる。そこまでの熱量を持ってくれる人が多いとも限らない。  だが心配する自分をよそに芦屋はあっけらかんとしている。  「それじゃどんどんSNSを更新してもっと好きになってもらおう」  「……まぁいいですけど」  SNSはライブの告知以外あまり活用していなかった。これからダンスや歌の練習風景をあげれば応援したいと思ってくれる人は増えるかもしれない。  そのあたりは三人と相談だ。  寮へと行くと珍しく日中でも三人が揃っていた。共同スペースのリビングで携帯を覗き込んでいる。  昴に気づいた葉月が肩越しに振り返った。  「これ、この前のライブの帰りのやつですよね?」  「すごいバズってんじゃん」  いまこの瞬間もどんどん広められ、数字が伸びていく。でも注目度が一気に増す分、アンチも多い。  『そんな言うほどかっこいいか?』と踊りに関係ないことまで言われてしまっている。  「社長はこの波に便乗したいみたいだけど」  「それはだめ!」  異を唱えたのは意外にも爽だった。目立ちたがり屋だから率先して波に乗ろうとしそうなのに。  「こんなの人の噂と一緒ですぐに廃れるよ。ちゃんと地盤を固めておいた方がいい」  「爽が珍しく真面目なことを言ってる」  「元ホスト舐めんなよ」  爽はどこか勝ち誇った顔をしている。  「僕も一回バズったことあるけど、二度三度と同じことしても相手は目が肥えてるからどんどん要求がデカくなる。ここはぐっと堪えた方がいい」   「経験者が言うならそうした方がいいか」  爽の言うことも一理ある。乗りたい波だがここは我慢するしかない。 一発屋で終わらせたいわけじゃない。  長くずっと愛されるアイドルにいさせてやりたいのだ。  「この封筒マーク赤くなってるけどなに?」  葉月に指摘されてみるとホトスプのアカウンドにDMがきている。  「なんだろう」  タップしてみると箱根のホテルからの依頼メッセージだった。  「つきましてはライブを開催して欲しいとのことで……!」  「箱根でライブ!」  わっと葉月と爽が喜び、ハイタッチをしている。  「俺、大涌谷行ってみたい!」  「美術館もいいよね。あと芦ノ湖の海賊船とか」  うちうきと旅行マップを調べ始める二人に呆れてしまった。銀太も遠巻きに携帯を覗いているから楽しみなのかもしれない。  「一回社長と相談してからな」  念を押したが芦屋からはオッケーを貰えるのは目に見えていた。

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