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第9話
東京駅から東海道新幹線に乗り換えて三十分ほどで小田原に着く。そこからバスに乗り込んで箱根湯本を目指した。
「東京よりは湿度がないけど、やっぱ暑いね」
「標高が高いせいか日差しが強く感じる」
バスを降りると灼熱の熱風が出迎えてくれた。湿度がないお陰でじめっとしていないが、日差しは強いしなにより暑さは都心とそう変わらない。
けれど土産物の店や近くを流れる川や橋が見えると東京の喧騒とは違った趣きがあり、わくわくしてしまう。
「えっとここからまたバスを乗り換えるよ」
「また乗るの」
爽は眉を寄せている。移動が長時間になるのは予め説明してあるが、暑さも加わるとキツイ。
メンバーの体調管理もマネージャーの務めだ。
「まだ時間あるからここで食事する?」
「賛成! 僕、冷たいうどんがいい!」
爽はすぐに元気を取り戻し、そそくさと歩き出してしまった。その後ろを爽の分のデイバックを持った銀太が追いかけている。
「銀太って無口だけどわかりやすいですよね」
「なにが?」
首を傾げると葉月は呆れた顔をしている。
「銀太って爽のことが好きなんですよ」
「そうなの!?」
「あんなにわかりやすいのに」
「普通気づかないだろ。それに銀太と話したことほとんどないし」
銀太は喋ることは少ない。たまに話せば筋肉がどうのこうのと語るだけで、恋愛ごとにも興味がないのかと思っていた。
「爽がホスト辞めてアイドルになるって言うからついてきたって話したじゃないですか」
「それが恋愛面だとは思わなかったんだよ。そっか、純愛じゃん」
まるで少女漫画のようなひたむきな愛ではないか。
こちとら肉欲ばかりにまみれていたせいで、愛だの恋だのとは縁遠く、足裏を撫でられたようなくすぐったさがあった。
「一途ですよね」
眩しそうに目を細める葉月の表情から羨ましそうに見えた。
葉月は背も高く、容姿もいい。犬のように愛嬌があるし年上受けしそうだ。
「葉月は恋人いないの?」
「アイドルやるときにちゃんとケリつけてきました」
ということはいたことがあるのか。
なぜか頭に重石を乗せられたようにずんと沈む。
これだけカッコよくてやさしかったら誰も放っておかないだろう。それこそピラニアの池に投げ込まれた餌のように食い尽くされていてもおかしくない。
でもアイドルの色恋沙汰はご法度だ。それをわかっているからこそ、ケリをつけたとこうも断言できるならそれだけ葉月の本気度を感じさせられる。
「二人がもうあんなに遠くに行っちゃってますね。追いかけましょうか」
「そうだな」
「二人とも待って!」
米粒ほどの爽たちを追いかけた。
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