12 / 30
第12話
理華はダンス教室には慣れなかったが、代わりにアイドルに夢中になった。
幼稚園から帰ってきたらテレビに張りついて録画した音楽番組を繰り返し観ているような子だった。
刷り込み要素で母親もハマりだし、ライブDVDや雑誌、CDを買い漁るようになり本格的なファンになるにはそう時間がかからなかった。
いつしか自分も夢中になり、三人でテレビに噛りついていると父親が苦笑していた。
アイドルのダンスをコピーして踊ると理華は花が咲くような笑顔を向けてくれ、その顔が見たい一心でダンスの練習に力が入った。
『お兄ちゃんが踊ってるところをテレビで観たいな』
子どもらしい無邪気な言葉だ。でも可愛い妹の願いを叶えるため、中学生にあがりいくつかの事務所に履歴書を送ったが受かることはなかった。
母親と理華が火事で死んでも、せめて妹が願ってくれたことを叶えたくて片っ端からオーディションを受け続けた。
高校二年生のときにやっと「チェリッシュ」に受かった。
アイドルというよりはホストに近く、お触りありが売りで、チェキを撮るときはキスをした。もちろん客からの要望があれば身体を重ねることもある。
けれどどれだけ客に媚びても地下アイドルからの枠からでられなかった。これではテレビの前で歌って踊るなんてできない。ならいっそのことプロデューサーや他事務所のマネージャーと関係を持てば、使ってもらえるかもしれない。
ファンと寝ようが小汚いおっさんたちと寝ようが同じだった。もう身体は汚れ過ぎていていくら泥をつけられても変わりはしない。
次第に目立つポディションを与えてもらえるようになり、グループで一人だけ知名度が上がった。
これだ、これしかない。
売れるならどんな男でも寝た。一流のアイドルになるには必要なことだと思った。
だがそれに気づいたメンバーに週刊誌に売られ、呆気なくアイドルを辞めさせられた。
アイドルとして僅かな収入で父と二人生活していたが、最愛の妻子が死んで心を病んでいた父は病気で呆気なく死んだ。
一人ぼっちになり寂しさを紛らわせるように売りを始めるのにそう時間はかからなかった。
高校を辞め、若さだけで可愛いともてはやされて必要とされていると勘違いしていた。
売りは若ければ若いほど重宝される。気づけば店のナンバーワンにまで上り詰めていた。
でも全然嬉しくなかった。
キラキラのアイドルとは対極の位置にいる。理華との約束も守れず、ただ泥水を啜るように生きていて、なにがしたかったのだろうと立ち止まっては行く道に悩んだ。
でもいまは違う。
ホットスプラッシュがいる。
葉月たちを一流にさせれば自分の夢が叶うのも同じだ。
シャワーのコルクを締め、浴室から出ると相手はベッドでワインを開けていた。
今夜はネット関連に詳しい男だ。複数のアカウントを作り、コメントや評価をして再生回数を伸ばしてくれる。
「お待たせしました」
妖艶な笑顔を浮かべると男は嬉しそうに手を伸ばした。
ともだちにシェアしよう!

