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第15話
テレビの影響は侮るなかれ。
一晩でフォロー数が十万人まで伸びた。この勢いを聞きつけてラジオや深夜番組からもオファーがかかり、順調にキャリアを積んでいる。
だが一つ大きな問題点が浮き彫りになった。
「ほら、次の新曲の振り憶えないと」
「いまスキンケアしてるから後で」
「じゃあ銀太も」
「いつも通り動画を送ってくれ」
「……困ったな」
各メディアで注目されるようになり、露出が増えた。外に出かけると声をかけられることもあり、芸能人としての箔がついてきている。
だがそれが仇となり、爽はいっそう練習をすることなく見た目ばかり気にするようになってしまった。
どうやら生で見たアナウンサーたちの美しさに負けられないと思っているようだった。
唯一の長所である歌の練習も怠り、エステや脱毛、整体に通い外見を磨くことに時間をかけている。
三枚目の新曲を出すことも決まり、広告も打ち始めている。それなのに上っ面の練習だけで以前のようなキラキラさはない。
思わぬ盲点だった。
注目されればされるほど歌やダンスに力がはいり、より三人の魅力が伝わると思っていたが現実は真逆に作用した。
特に銀太は世間の評価を気にしないところがあり相変わらずマイペースを貫いている。
葉月は以前より力のはいった練習をしているが三人で揃わないと意味がない。
「爽も銀太もいい加減練習しろよ」
スタジオで練習していた葉月が寮に戻ってきた。真冬なのにシャツは汗でしみている。
それを見た爽は案の定眉をひそめた。
「嫌だよ。汗かきたくない。それにいま顔パックしてるし」
「じゃあそれ終わったらやろう。銀太も筋肉のことばかりじゃなくて、もっとダンスの腕磨こうよ」
「規定以上の運動をすると筋肉の繊維が切れてしまう。それを修復するのに数日かかるんだ。だからできない」
二人のやる気のなさにお手上げだ。正直、どう鼓舞すればいいのかわからない。
「いい加減にしろよ!」
葉月は首に巻いたタオルをフローリングに叩きつけた。
「そんな見てくればかり気にしてたらすぐに注目されなくなるぞ」
「大丈夫だよ。僕の可愛さは永久保存だから」
「爽だって二十二歳だろ。アイドルとしては遅咲きなんだ。容姿なんてどうしたって十代の子には勝てないよ」
「はぁ? いまなんて言った?」
額に青筋を浮かべた爽がソファから立ち上がって葉月を睨みつけた。
「そのままの意味だ。俺たちはアイドルとしては年齢が高すぎる。だから容姿以外のことを武器にしていかないと生き残れない」
「おまえ、一番人気ないからって僻んでるの?」
爽は煽るが葉月は睨みつけるだけで堪えている。握られたこぶしが震えているのが見えた。
三人の思いがバラバラな方向に向いている。これはマズイ。
「ほら、もうそれぐらいにして雑誌の撮影行こう」
葉月と爽はこの日一度も目を合わせることはなかった。
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