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第17話
三曲目のシングルはクリスマスに合わせたラブソングにしてもらえた。いままでパワフルさを前面に押し出していたが、大人っぽい色気がある。
デモを聴いた爽は身を乗り出した。
「これいいね。歌うの楽しみ」
「特にAメロのここ、爽の歌声にハマりそう」
「どれどれ」
楽譜を見ながら爽が歌うとパズルのピースがピタリとハマるような雰囲気がある。さすが鎌田だ。いけ好かない変態ではあるが、実力はある。
「でもダンスは難しいですね」
葉月はデモを聴きながら腕を組んでしまった。
いままでの曲とは雰囲気ががらりと変わるのでダンスの構成が難しい。アップテンポなダンスが得意な葉月には難しい課題だろう。
テレビに出るようになってもダンスの振りは葉月と二人で考えている。
外部から振付師を雇うこともできるが、ホトスプの方向性が定まりつつあるので壊されたくなかった。もちろん芦屋と相談して決めている。
だがどうしても似たり寄ったりの振りつけになってしまっていた。
「インプットを増やそう」
「インプット?」
事務所へと移動して芦屋のコレクションである様々なグループのライブDVDを再生した。
生粋のアイドル好きな芦屋はジャンルのこだわりがない。正統派の女性アイドルからワイルドな男性アイドル、アニメ作品とタイアップした声優アイドルなど幅が広い。
「この曲バラードなのにダンスもしっかりしてますね」
「でも歌うときは歌に集中して周りが添えてるのもいい」
葉月と二人で議論しているといつのまにか爽と銀太も見入っている。
「二人はどう思う?」
「僕は歌に集中したいから歌うときは踊りたくないな」
「確かに。音程がズレると悲惨だよね」
ノートに構成を書き綴っていると銀太が身体を乗り出した。
「俺、ここ踊りたい」
「サビとBメロの間?」
こくんと頷く銀太が意外だった。急にどうしたのだろう。
目を丸くしていると爽は罰が悪そうに頬を掻いた。
「葉月の言うことも一理あるなって思っただけ。確かに見た目だけいいならわんさかいるしね」
「俺ももっと真面目にやる」
「そっか。うん、それがいいな!」
二人の肩をバシバシ叩くと爽に痛いよ、と怒られた。でも二人の変化が嬉しい。
振り返ると葉月も笑顔になっていた。
一時はどうなるかと肝を冷やしたがいい方向に進み始めている。
「じゃあ他にもやりたいことあったら意見だしていこう」
四人でフォーメーションを考えるとホトスプの絆が確かなものになっていく気がした。
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