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第18話

 アラサーに徹夜はしんどい。  朝日が昇る前とはいえ、わずかな光でも目の奥に沁みる。それに全身の関節が錆びたネジを回すようにギシギシと鳴っていた。 長時間に渡り無理な体位を強いられたせいだ。  でもこれでまたホトスプは有名になれる。武道館を満員にしたホトスプを思い浮かべると身体の痛みをすぐに忘れられた。  今日は早朝から仕事だ。もう慣れた現場とはいえ、マネージャーが行かないなんてあり得ないだろう。  家に戻る時間はないから事務所の風呂を借りることにした。こういうときマンション兼事務所の利便性を痛感する。  風呂には昴とメンバーそれぞれが持ち寄った専用のシャンプーやボディソープが置いてある。マンションの一室で同居していると風呂やトイレの時間が被るので、交代で事務所の風呂を使っているらしい。  熱いシャワーを頭から浴びると気分が少し浮上してくる。指を後ろに回し、中に精液が残っていないか念入りに探る。出る前もきれいにしてきたつもりだったが、念には念を。少しでも残っていたら腹をくだす。これから仕事が立て続けにあるのに体調なんてくずしていられない。  風呂から出ると事務室のソファに爽の姿があった。寝そべって携帯を見ている。寝間着の猫耳フードのついたパーカーを着ているから朝シャンをしようと思ったのだろう。  「おはよう、朝早いな」  「昴ちゃんは朝帰り?」  「まぁ打ち合わせとか色々な」  「ふーん」  特に追及されることなくすれ違うと爽はすんと鼻を鳴らした。  「やっぱ洗っても匂いって残るよね」  「なにが?」  「ラブホの独特な匂い」  驚いて目を見張ると爽はくすぐったそうな顔をした。無邪気な子どものような表情が腹の底を冷やす。  「ごめん、カマかけたつもりだったんだけどビンゴ?」  「……最悪」  ギロリと睨みつけると爽は両手をあげて降参のポーズをとった。  「誰かに言いふらしたりしないよ。恋人がいるの?」  まさかね、と爽は笑った。大方、昴のことを調べたのだろう。面接のときにも疑っていたのは爽だけだった。  「僕たちの仕事が増えるんだから、むしろ感謝してるよ」  「反対しないのか」  「反対して欲しいの?」  「そういうわけじゃないけど」  葉月の顔が浮かぶ。実力でのし上がりたいと言っていた男に嘘を吐いている。  あのときは罪悪感なんて微塵も感じなかったのに、どうしてかいま後悔しそうになっていた。  爽にバレて動揺しているせいだろうか。  「葉月はそういうの嫌いそうだよね。真面目だから」  「わかってるなら絶対に言うなよ」  「もちろん。僕もいまのこの状況は美味しいからね」  風呂入ってこよう、と爽はバスタオルを抱えて浴室に消えていった。  (どうしていまごろ胸が痛みだしてるんだよ)  葉月たちを売り込むために始めたことだ。後悔するなんてあり得ない。  これは意味がある大切なことだと細胞にまで刻むように言い続けた。  けれど葉月の顔を思い浮かべると胸がつっかえて息が苦しい。

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