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第21話
ライブが中盤に差しかかり、盛り上がりは最高潮に達している。舞台袖から三人のMCをどんと構えた状態で見守れるまでになった。
場慣れした三人は小さなアクシデントでも自分たちで捌けるまでに成長していた。
「満員だね」
ライブ会場の持ち主である砂山は顎髭を擦っている。ぷっくりとした腹がズボンの上に乗っていて、中年太りを絵に描いたような男だ。
瞬時に笑顔のお面を貼りつけた。
「テレビに出るようになったからです」
「きみが手助けしたんだろ?」
「俺は舞台を整えただけです。ここまで集められたのは彼らの実力です」
いくら枕をして大きな箱でライブができても、有名な作曲家に作ってもらってもそれを活かせるだけの実力がなければ意味はない。
葉月たちは充分に力を発揮してくれている。
だからこちらもそれ相応に身を切っても後悔がない。
「僕も功労者の一人だから癒して欲しいな」
口元を歪めて笑う砂山を情熱的な目で見上げた。内心は冷水を浴びせられたように体温がなくなっていくのに表面は熱っぽく振る舞う。
このちぐはぐさにも随分慣れてしまった。
「いいですよ。ライブが終わったあとで」
「鉄は熱いうちに打てと言うでしょ」
「……でも」
ちらりと舞台を見る。ライブは後半戦が始まっていた。
ライブ中はマネージャーの仕事はない。下手に手を出してライブスタッフの迷惑をかけるわけにもいかない。舞台袖でじっとしているだけだ。
少しくらい抜けても問題ない。
「わかりました」
「会議室を人払いしてるから行こうか」
「準備万端ですね」
「きみとするのが楽しいんだよ」
耳元に息を吹きかけられ気持ち悪さで鳥肌が立った。でもそんなことはおくびにも出さない。これで機嫌を損ねさせてしまったら、もうこの会場は使わせてもらえなくなる。
会議室に行くとテーブルがまるでベッドのようにくっつけられていた。
「あまり時間がないからね」
「いいですよ」
キスをして、フェラをして、身体の奥を解してーーもう何百回とやってきた手順。染みついた動きはなにも考えなくても身体が勝手に動く。
快楽を追っているはずなのに時折葉月の歌声が聞こえると意識が戻ってきてしまう。伸びやかでクセのない声。きっと汗を流しながら得意なダンスをしているのだろう。
「こっちに集中して」
後頭部を押さえつけられ、喉奥に性器が入り込み、えづきそうになるのをぐっと堪えた。舌を使って裏筋を舐めるとあからさまに硬くなる。
もう五十を過ぎているのに砂山は性に貪欲だ。
「挿入れたいな」
ちゅっとわざとリップ音をさせて性器を離した。欲望にまみれた黒い瞳と目が合うと自分がどうしようもない下等な生物に成り下がったような気がする。
砂山をテーブルに押し倒して跨った。蕾に先端を擦りつけて腰を下ろせば自重で深く交わえる。
と、わかっているのに膝を下せないでいた。
「どうしたの?」
「……いえ、なんでもないです」
「今日は全然集中してないね」
「こんな誰が来るかわからないところでヤらされてますから」
「でも見られた方が興奮するでしょ」
そんなわけない。こんな姿、葉月になんて見せたくない。
砂山に腰を掴まれてぐっと性器が中に挿入った。内臓を押し上げられる圧迫感に息を漏らすと間髪入れずに律動が始まる。
ただ欲を吐き出すだけの行為。どうして今日はこんなにも冷めた気持ちになってしまうのだろう。
ホトスプの音楽が鳴る。客の歓声が部屋を揺らすほどの大きさになった。もうすぐアンコールが始まるかもしれない。
(ならさっさと終わらせよう)
砂山のリズムに合わせて膝を使った。こんなことお手の物だ。見下ろす砂山はうっとりとしていて気持ちが悪い。
下腹部に力を入れて中をきつく締めると腰を強く掴まれた。
「体位変えてもいい?」
「え、これじゃあ」
身体を反転させられて扉の方を向かせられた。両足を大きく広げ、結合部分が露わになる。そりたつ性器がぶるりと震えた。
いま扉を開けられたらすべてを見られてしまう。
後ろに手をつくとがたんとテーブルが揺れた。
「これ、嫌です」
「でも中の締めつけが悦くなったよ。やっぱ見られるのが好きなんだ」
「好きなわけ……あっ!」
不安定な体勢で奥まで突かれ、快楽が電流のように流れてくる。
ぐちゅぐちゅと結合部分から卑猥な音をたてさせながら砂山は快楽を追っている。よほど興奮しているのかなかなか終わる気配がない。
早くしてくれと祈るように腰を振っていると外がだんだん騒がしくなってきた。
どうやらライブが終わり、撤収作業に入ったらしい。
廊下で人が行きかっているのか複数の足音が響いている。
熱を放出させたくて堪らない。自分の性器を上下に扱くと快感がさらに高まった。
「谷河くん、本当にかわいい。自分でしちゃうくらい我慢できないんだ」
「いい……から、あっ、はや……んん」
快楽に支配されてしまった身体はもう中を犯されることに夢中だった。
だから突然扉が開いて葉月の姿を見たのは悪い夢かと思った。
「失礼します。ここに昴さんがーー」
「あっ! だめ……やぁっ」
びゅっと精液を吐き出した先にライブTシャツ姿の葉月が立っていた。信じられないとばかりに目を大きく見開き、昴たちを見て固まってしまっている。
葉月が入ってきても砂山は動きを止めない。的確に弱いところを突いてきて、心とは裏腹に身体は悦び蜜を溢れさせている。
「さ……やまさっ、だめ……もう、んあっ」
「あとちょっとだから」
「だめだめ。またイク……あぁっ!!」
奥を突かれた拍子にまた達してしまった。白濁を床に飛び散らせ、余韻で身体が痙攣している。
「ほら、せっかく観客もいることだからもう一回」
「だめです……あっ!」
身体に力が入らないことをいいことにまた律動が始まった。中に出された精液のせいで動きが滑らかになる。
無駄な抵抗とわかっていても顔を隠した。
「見ないで……やだ。葉月っ、んあ!」
「よかったら混ざる? 使い古しているとは思えないくらい締めつけがいいよ」
葉月の顔が見られない。こんな姿見せたくなかった。嘘を吐いていたと知られたくなかった。
葉月の無言の視線を受けながら、ただ涙を流していた。
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