2 / 151
2.遭遇
「今日も痛いくらいの熱い視線を感じるな」
「藍沢を、見てるんだよ」
廊下を歩きながら喋る藍沢に、俺はすかさず返した。
眼鏡の向こうから、ちらりと藍沢が俺を見る。
「星七、お前それ本気で言ってるんじゃないよな?」
意味がよくわからない問いかけだった。
「それより、さっきの講義の話だけど――」
そんな他愛もない話をしながら、俺たちは大学を出た。
喫茶店でカフェオレを買い、藍沢と並んで歩いていると、どこからか怒声が聞こえた気がした。
…喧嘩か…?
「こっちから帰るか」
藍沢の提案にすぐ頷こうとしたが、視界の端に人が倒れる姿が映った。
遠くてはっきりと見えないが、暗がりの細道の先で、数人の男と、頭から赤い血を流してアスファルトに倒れ込む男の姿が見えた。
「…おい、星七!」
後ろから藍沢の声がしたが、気づけば俺は、倒れていた彼のそばまで駆け寄っていた。
「……だ、大丈夫ですか?」
軽く走ったせいで、はぁ、と少し息が乱れる。
白い線の入った黒のジャージに、前髪をセンター分けした茶髪。そして、耳にピアスを付けた彼は、仰向けの状態で倒れたまま、表情を歪めていた。
……よかった、意識はあるみたいだ。
先ほどまで彼のそばにいたガラの悪い連中は、いつの間にか姿を消していた。
「…ぃって…」
頭に手で触れようとする彼に、俺は自分の持っていたハンカチを差し出す。
「これ、使って」
スっと細い目を開けた彼は、俺を一瞥したが、無言でハンカチを受け取った。
その後、何か言おうとした彼と会話をする前にすぐ、藍沢に腕を引かれ、俺は足早にその場を後にした。
ともだちにシェアしよう!

