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2.遭遇

「今日も痛いくらいの熱い視線を感じるな」 「藍沢を、見てるんだよ」 廊下を歩きながら喋る藍沢に、俺はすかさず返した。 眼鏡の向こうから、ちらりと藍沢が俺を見る。 「星七、お前それ本気で言ってるんじゃないよな?」 意味がよくわからない問いかけだった。 「それより、さっきの講義の話だけど――」 そんな他愛もない話をしながら、俺たちは大学を出た。 喫茶店でカフェオレを買い、藍沢と並んで歩いていると、どこからか怒声が聞こえた気がした。 …喧嘩か…? 「こっちから帰るか」 藍沢の提案にすぐ頷こうとしたが、視界の端に人が倒れる姿が映った。 遠くてはっきりと見えないが、暗がりの細道の先で、数人の男と、頭から赤い血を流してアスファルトに倒れ込む男の姿が見えた。 「…おい、星七!」 後ろから藍沢の声がしたが、気づけば俺は、倒れていた彼のそばまで駆け寄っていた。 「……だ、大丈夫ですか?」 軽く走ったせいで、はぁ、と少し息が乱れる。 白い線の入った黒のジャージに、前髪をセンター分けした茶髪。そして、耳にピアスを付けた彼は、仰向けの状態で倒れたまま、表情を歪めていた。 ……よかった、意識はあるみたいだ。 先ほどまで彼のそばにいたガラの悪い連中は、いつの間にか姿を消していた。 「…ぃって…」 頭に手で触れようとする彼に、俺は自分の持っていたハンカチを差し出す。 「これ、使って」 スっと細い目を開けた彼は、俺を一瞥したが、無言でハンカチを受け取った。 その後、何か言おうとした彼と会話をする前にすぐ、藍沢に腕を引かれ、俺は足早にその場を後にした。

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