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4.約束

先日会った大きな男の名前は、片桐壮太郎(かたぎり そうたろう)というらしい。 なぜ俺とLINE交換をしたのか、未だに真意はよく分からなかったが、トークの雰囲気からは少なくとも悪意は感じられなかった。 とりあえずは、深く詮索しないでおくことにした。 「歳は一つ下で、身長は188センチあるらしい」 「大きいな」 大学の食堂。 昼時の騒がしさの中、俺は向かいの席にいる藍沢に、彼のことを話していた。 藍沢はいつも通りの落ち着いたポーカーフェイスで、珈琲を静かに口に運んでいる。 「俺もそこそこ高い方なんだけどな」 「自慢だるい」 じとっとした目を向けると、口元を軽く緩める藍沢。…いい性格してるぜ。 「あ、それでさ、彼…片桐君なんだけど。悪い人ではないんだろうけど……最近ずっと、会おうって言われててさ」 息をつくように話すと、藍沢の前髪越しに見えた眉が、少しだけ動いた気がした。 「へえ。何でだろうな」 それがさっぱり。 俺はそう言って、首を横に振る。 「彼の考えてることが…全然わからないんだよ」 いい人そうには見えたけど…。 「そうだな。もう一回会ってお礼がしたい、とか?」 藍沢の話に、俺はテーブルに片肘をついて、うーんと唸る。 「信じていいのかなぁ」 「何を?」 「……彼のこと」 そう呟くと、俺は視線を横にずらした。 彼は多分…俺たちとは異なる考えを持っていそうだった。 派手な容姿に、そこはかとなく感じる圧倒的な雰囲気。 片桐君も、あのとき彼の後ろにいたあの2人も、いわゆるヤンキーなんだろうか。 だけどそうだとして、何で片桐君は、俺みたいな平々凡々な男に会いたがるんだろう…。 いくら考えてみても、まったく分からない…。 「星七」 物思いにふけっていると、藍沢に名前を呼ばれて我に返る。振り返ると、どこか優しい表情を浮かべた藍沢が俺を見ていた。 「会いに行ってこいよ」 「え…けど」 「――大丈夫だよ。あいつが最初にお前に会いに来た時、俺から見ても悪意は1ミリも感じなかった。それに、ハンカチもわざわざ洗って返してくれてたんだろ?」 …それは、確かにそうだったけど…。 藍沢の言葉に、俺は頭を縦に小さくうなずく。 「行ってみれば?何か変わるかもよ」 迷う俺に、友人の藍沢はふっと薄く笑みを零して後押しするように話しかけてくる。 よく分からないけれど……藍沢がそう言うのなら、そうなのかもしれない。 片桐君に会ってみよう――そう思えた。 何で会いたいのか、お礼の続きなのか。それは分からないけれど。 その夜、俺は彼と会う約束をしてから、眠りについた。

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