6 / 151

6.友達

ここは、某所喫茶店。 誰もが知る有名なチェーン店で、店内は女子高生のはしゃぎ声やカップルの笑い声、サラリーマンの談笑で賑わっている。 俺たちが座る窓際の席からは、街並みが一望でき、柔らかな午後の日差しが差し込んでいた。 気分が自然と上がるはずなのに、なんだか今は、緊張で胸がざわついている。 俺はテーブルの上に置かれたアールグレイを、そっと一口飲み込んだ。 「えっと、何だろう」 好きなもの、好きなもの…。 「そうだな……。やっぱり無難に、ハンバーグ、とか」 ぎこちない笑みを浮かべ、彼――片桐君の方へ振り返った。 明るい茶髪とピアスがよく似合う彼は、切れ長の目を細めている。 ……言った後に思ったけど、もっと他の好きなものを言えば良かったかな。 お洒落なものとか、趣味とか…。 急に顔に熱が集まった。 「ハンバーグ、美味しいですよね」 顔を赤くしていると、隣に座る片桐君が呟いた。 「う、うん。美味しいよね!」 それに慌てて、羞恥心を混じえながら笑顔でそう答える俺。 しかし、何故かすぐにまた、俺たちの間には長い沈黙が訪れた。 ……あれ。 どうしてこんなに話が続かないんだろう。 確かに彼とはほぼ初対面だけど、俺と彼は雰囲気もまるで違うけど…… でも、何でこんなに、 (空気、重いんだ……) 気まずい空気から気をそらすように、俺は目の前にあったストローに口を付ける。 どうしよう…。そう思っていると、 「星七さん、すみません」 視線を逸らしながら話す彼に気付く。 それはどこか、申し訳なさそうな顔をしているように見えた。 「……俺、星七さんともっと仲良くなりたいんです」 整った綺麗な顔をしているなぁ。なんてのんきに思いながら彼の横顔を見ていたら、まったく予想していなかった言葉を吐かれ、一瞬固まった。 え? …全然会話盛り上がってなかったのに? 「えっと、あの」 彼の考えていることが全く読めず、俺は視線を泳がせながら頭を困惑させる。 戸惑う俺とは打って変わって、彼はまっすぐにこちらを見つめていた。 「星七さん。俺と、友達になってください」 射抜くような目に、ドキリとした。 ていうか……ともだち?俺と、彼が? 終始彼の発言に驚きながらも、彼の瞳から、なぜか目を逸らすことができなかった。 俺は、そっと息を吸って、そしてゆっくりと頷いた。 「……うん」 こうして、俺は片桐君とめでたく友達になったのだった。

ともだちにシェアしよう!