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6.友達
ここは、某所喫茶店。
誰もが知る有名なチェーン店で、店内は女子高生のはしゃぎ声やカップルの笑い声、サラリーマンの談笑で賑わっている。
俺たちが座る窓際の席からは、街並みが一望でき、柔らかな午後の日差しが差し込んでいた。
気分が自然と上がるはずなのに、なんだか今は、緊張で胸がざわついている。
俺はテーブルの上に置かれたアールグレイを、そっと一口飲み込んだ。
「えっと、何だろう」
好きなもの、好きなもの…。
「そうだな……。やっぱり無難に、ハンバーグ、とか」
ぎこちない笑みを浮かべ、彼――片桐君の方へ振り返った。
明るい茶髪とピアスがよく似合う彼は、切れ長の目を細めている。
……言った後に思ったけど、もっと他の好きなものを言えば良かったかな。
お洒落なものとか、趣味とか…。
急に顔に熱が集まった。
「ハンバーグ、美味しいですよね」
顔を赤くしていると、隣に座る片桐君が呟いた。
「う、うん。美味しいよね!」
それに慌てて、羞恥心を混じえながら笑顔でそう答える俺。
しかし、何故かすぐにまた、俺たちの間には長い沈黙が訪れた。
……あれ。
どうしてこんなに話が続かないんだろう。
確かに彼とはほぼ初対面だけど、俺と彼は雰囲気もまるで違うけど…… でも、何でこんなに、
(空気、重いんだ……)
気まずい空気から気をそらすように、俺は目の前にあったストローに口を付ける。
どうしよう…。そう思っていると、
「星七さん、すみません」
視線を逸らしながら話す彼に気付く。
それはどこか、申し訳なさそうな顔をしているように見えた。
「……俺、星七さんともっと仲良くなりたいんです」
整った綺麗な顔をしているなぁ。なんてのんきに思いながら彼の横顔を見ていたら、まったく予想していなかった言葉を吐かれ、一瞬固まった。
え?
…全然会話盛り上がってなかったのに?
「えっと、あの」
彼の考えていることが全く読めず、俺は視線を泳がせながら頭を困惑させる。
戸惑う俺とは打って変わって、彼はまっすぐにこちらを見つめていた。
「星七さん。俺と、友達になってください」
射抜くような目に、ドキリとした。
ていうか……ともだち?俺と、彼が?
終始彼の発言に驚きながらも、彼の瞳から、なぜか目を逸らすことができなかった。
俺は、そっと息を吸って、そしてゆっくりと頷いた。
「……うん」
こうして、俺は片桐君とめでたく友達になったのだった。
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