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7.理由

先日、俺はとあるカフェで、1個下の男の子と友達になった。 素性はよく分からないが、腕に刺青があり、切れ長で鋭い目元が印象的な彼。 対して俺は、そんな彼に比べてごくごく普通の男子大学生だ。 なぜ彼が俺と友達になったのか…考えてみても、全く見当がつかない。 コントローラーを置いて、うーんと頭を捻らせる。 「なんだ、考え事か」 隣でテレビゲームを続けながら藍沢が言う。 「うーん……例の、片桐君がさ、俺と友達になりたいって言ったんだ」 「へえ」 「だけど、理由が分からないんだよ。確かにあの日、彼に声をかけてハンカチを渡したけど…たったそれだけで、そんなに簡単に友達になろうと思うかなって」 ただのハンカチ、一枚だけで…。 「お前は何でだと思ってるの?」 「え?」 藍沢の問いに、俺はまた、頭を悩ませる。 (そうだな……) 「逆恨み…とか?」 捻り出した答えに、隣に座る藍沢がふっ、と声を出して笑う。 「なんだよ」 それに思わずムッとしながらも、楽し気な藍沢の様子に、釣られて笑みがこぼれる。 「そんなわけないだろ」 藍沢はそう言って、コントローラーを机に置き、かちゃりと眼鏡をはずす。 笑いすぎて目に涙が浮かんだようだ。 「…そんなに面白いか?」 たまにこいつのツボが分からないんだが…。 藍沢は眼鏡を掛け直すと、まだ緩んだ口元のまま、俺を見た。 「鈍感にも程があるだろ」 鈍感? 「よく考えてみろよ。お前はあの男に手を貸したんだぞ」 しかも、殴られて倒れているところをだ。 藍沢の言葉に、俺はワザとらしく唇を尖らせる。 「手を貸してくれたって、彼が本当にそう思ってくれてるなら、それは嬉しいけど…。正確には、ハンカチ渡した”だけ”だぞ」 「だけ?」 藍沢は、俺の顔を見て、やれやれといったように呆れている。 「相変わらずだなぁ。お前は」 「なにがだよ?」 「お前の何気ない行動に、救われてる人間もいるってことだよ」 救う…?俺が? 「――まさか」 片桐君が俺に救われたと、そう思っていると…? そんなわけない。ありえない。 ……絶対、ありえないよ。 俺は薄く笑いながら、再びコントローラーに手を伸ばした。

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