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8.遊園地
藍沢の家を訪ねた週末のこと。
俺は片桐君に誘われて、某テーマパークに来ていた。
「片桐くん、久しぶり!待った?」
「いえ。俺も今来たところです」
片桐君は、黒いキャップに、グレーのラフなパーカー姿だった。
肩の力が抜けたその服装とは裏腹に、帽子のつばの下からのぞく鋭い目が俺をとらえる。その視線に、なぜか胸がどきりとした。
彼が単純にイケメンだからか、それとも、言葉にしにくい“何か”を感じるからなのか。
「何乗りたいですか?」
園内を並んで歩きながら、片桐君が尋ねてくる。
「うーん、そうだなぁ」
前を向いて歩く彼の背はひときわ高く、混雑の中でも目立っていた。
ポケットに片手を突っ込み、歩く姿が妙に様になっている。
「実はこういうとこ、俺あんまり来ないんだ。だから、何があるのかよくわからなくってさ…」
俺は眉を下げて彼に向かって笑う。
「前から気になってたんですけど…星七さんって普段は何してるんですか?」
賑わう園内の片隅で売られるカラフルな風船に気を取られていた俺は、彼の問いに、え?と返事をする。
「普段?」
「はい」
こちらをじっといたって真剣に見つめる彼の視線に、俺は愛想笑いする。
「…うーん、聞いても面白くないかも。勉強とかバイトとか…あとはサークルくらいかな」
「へえ。何のサークル入ってるんですか?」
「バスケ部」
すると、隣を歩く片桐くんは、驚いたように目を丸くする。
「バスケ?」
「うん。そうそう」
意外だった?
尋ねる俺に、片桐君が頭を縦にうなずく。
「正直…。星七さんってどっちかっつーと、文化寄りかと思ってたんで」
「あはは、ひどいな。それって、俺が運動できなさそうに見えたってこと?」
「いえ、そういう意味じゃないですよ」
その後も片桐君と他愛ない会話を交わしつつ歩いていた時。
ふと、前から歩いてきた男子高校生の集団と、肩がぶつかるほどの距離ですれ違いそうになった。
と、その瞬間——
隣にいた片桐くんが、ごく自然に俺の肩を抱き寄せ、自分の方へぐっと引き寄せた。
「ったく、アイツら……」
高校生たちが通り過ぎたあと、耳元で少し苛立ちを帯びた彼の声が聞こえる。
それに驚いて顔を上げると、ちょうど振り返った片桐くんと目が合う。
細くて茶色い瞳が、一瞬だけ見開かれた。
「あ…すみません」
片桐君はすぐに距離をとって、俺から視線を外した。
「…行きましょう」
短くそう言うと、片桐君はまた、反対の手をポケットに突っ込んだまま歩き出す。
少しだけうつむいた片桐君の横顔は、さっきまでの表情とは違って見えた気がした。
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