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12.仲間(片桐side)
時計の針が夜の7時を差す頃。
店内は昼間の静けさが嘘のように、人の声が飛び交う騒がしい場所へと様変わりしていた。
ボックス席に座る俺の目の前には、昼間現れた金髪の男と、時間差でやってきた黒髪の男がいる。
金髪男――佐野は、少し赤らんだ顔をして、勢いよくビールジョッキをテーブルに置いた。
「で、結局なんなんすか、ソウさん」
「は?」
「だから、連絡なかった理由っすよ!」
ぐっと顔を近づけて詰め寄ってくる佐野から、俺はそっけなく視線を逸らす。
「俺は、あんたに何かあったんじゃないかって……来る日も来る日も心配してたんですよ!」
(……あー、だる。)
俺は目で「助けてくれ」と合図するように、佐野の隣に座る黒髪の男――黒崎を見るが、あっさり無視された。
「つーか!連絡無視せずに、せめて既読にするとか!いや、既読無視もダメですけど!」
「お前、声でけーよ」
「デカくさせてんのは誰ですか!?」
言い合いになる俺たちの間に、マスターが枝豆の皿をトンと置く。その手つきは、まるで「落ち着け」と言っているかのようだった。
「俺たち、片桐さんのことを責めたいわけじゃないんです」
机に肘をついた俺に向かって、黒崎が淡々と続ける。
「ただ、純粋に心配してるんです」
「心配?」
「はい」
黒崎の漆黒の瞳が、真っすぐ俺を見据える。
その目は、冗談じゃないことを伝えてきているようだ。
「以前、街で片桐さん襲われましたよね。俺たちがいない、ひとりの時に」
「…ああ」
「あの時の相手は複数人。しかも、凶器まで持っていた。……正直、喧嘩の域を越えてます」
…確かに、そうだった。
あの日のことは、今でも鮮明に思い出せる。
何の前触れもなく、死角から飛び出してきた数人の男に襲われた。
いくら俺でも、不意打ちに加えて数の暴力、しかも武器持ちじゃ勝ち目はなかった。
あれは、“ただの喧嘩”なんかじゃなかった。
「でも、意外です」
「……。なにが」
「俺は、てっきりあんな目に遭った報復として、“全員地獄に突き落としてやる”とか、“卑怯な真似しやがって、絶対許さねぇ”とか……そういう展開になると思ってたんです」
片桐さん、自分から喧嘩を吹っ掛けることはしないけど、売られた喧嘩はきっちり買うタイプだし。
でも、今回は…。と、話を続ける黒崎。
その言葉のあと、ふと、2人の視線が静かに俺を見つめていることに気づく。
俺は何かを察するように、手元のレモンサワーをごくりと一口、喉に流し込んだ。
「……なんだお前ら。もう一杯飲むか?」
しかし、この男から逃れられるわけがないことは、とうに気づいていた。
「片桐さん、いい加減話してください。…俺たち、“仲間”ですよね?」
黒崎の顔には、穏やかな黒い笑みが浮かんでいた。
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