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14.違和感(片桐side)

カフェバーで飲んだあの日から数日後。俺はある誘いを受け、星七さんの大学まで足を運んでいた。 「よ。こっちだ」 体育館の方へ向かうと、入口付近で手を振る一人の人物が目に入る。 星七さんの友人――藍沢さんだ。 「こんにちは。えっと……ここで星七さんがバスケやってるんですか?」 尋ねると、藍沢さんは眼鏡の奥の目を向こうにやりながら、軽く頷いた。 「そうそう。ほら、あれ」 開け放たれたドアの隙間から中を覗くと、そこには確かに――バスケットボールを持ち、コートを走り回る星七さんの姿があった。 ユニフォームを着て、汗を滲ませながら動く彼は、いつもよりずっと大人びて見えた。 「ナイッシュー!」 味方からの声とともに、星七さんが綺麗なフォームでゴールを決める。真剣な顔でボールを追う彼の姿は、まるで別人のようだった。 眩しくて、思わず見惚れるほどに。 「驚いただろ?」 藍沢さんが、ちらりと俺の方を見て微笑を浮かべる。 「高校時代から上手いんだ。試験もほとんど毎回学年トップ。大学入ってからもそのまんまだよ」 そう言って、腕を組みながら語るその声に、俺はただ相槌を打つしかなかった。 正直、実感が湧かない。 俺にとって星七さんは、人生で初めて手を差し伸べてくれた存在だった。 そして、彼のこれまでの言葉や所作、ふとした笑顔――それらだけで、俺は勝手に星七さんのイメージを作り上げていた。 しかし、目の前に映る彼の姿はその印象とはかけ離れ、まるで自分とは違う、とても遠い場所にいるように感じられた。 「話す?」 ぼうっと立ち尽くしていると、藍沢さんが声をかけてくる。 「……いえ。大丈夫です」 頑張っている彼に、水を差したくなかった。 その代わり、そのまま体育館の隅で、彼の活気に満ちた姿を静かに見つめた。 しばらくして、俺はそっと体育館をあとにする。歩き出す背中の向こうから、彼らの会話がふいに耳に届いた。 「星七、ナ~イス」 「自分で拭けるから」 振り返ると、藍沢さんが星七さんの額の汗をタオルで拭っていた。少し照れたように顔を背ける星七さん。その光景を見た近くの女子学生たちが、小声でざわついている。 ――そういえば。 遊園地の帰りも、どこか引っかかるものを感じていた。 言動もそうだが……普通、男同士であんなに距離が近いものだろうか。 なんとなく胸の奥がざわつくのを感じながら、俺は二人から目を逸らし、足早にその場を離れた。

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