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15.雨(藍沢side)

星七のサークル活動が終わり、俺たちは大学の建物を出ようとした――そのとき。 外があいにくの雨であることに気づく。 …しまった。今日、天気予報見るの忘れてた。 「星七、お前傘……」 声をかけかけたところで、星七はリュックの中をごそごそと探り、迷いなく折りたたみ傘を取り出す。 「ほら」 どこか得意げな表情で、俺に傘を掲げて見せる星七。 その様子が妙に可笑しくて、思わず笑ってしまいそうになる。 「うわ、けっこう降ってるっ」 「やばいな」 外へ出ると、想像以上の土砂降りだった。俺たちは一つの傘の下、肩を寄せ合うようにして歩き出す。 ユニフォームから私服へと着替えた星七の黒髪が、湿気のせいか少し跳ねていた。 「星七」 「なに?」 「夏休み、どうする?」 「うーん……」 前を見つめながら星七が小さくうなった。 雨で薄暗くなった道路には、ヘッドライトを灯した車がいつもより多く走っている。 「普段通りかな。サークル活動しながら、ほぼバイトする感じ?」 「クス、俺もだ」 俺は傘を、無意識に星七の方へ少しだけ傾けた。   「そういやさ、藍沢のとこの弓術部、すごい賑やかだよな~」 「え?……ああ。なんか知らないけど、すぐ弄ってくるんだよな、あの人たち」 小さくため息をつきながら言うと、次の瞬間には星七がけらけらと笑い始める。 「そんな面白いか?」 「違う違う、そうじゃなくて。つくづく藍沢って、人に好かれるタイプだなーと思ってさ」 笑いながらこちらを向いた星七に、つられて俺もつい笑みを零してしまう。 「そうか?それ言うならお前の方が……」 「パッと見は、どう考えてもとっつきにくそうな雰囲気してるのにな~」 「…それ、どういう意味だよ」 「そのまんまだってば」 じゃれ合うように笑いながら歩き、電車に乗り、少し歩くと星七の家が見えてきた。 「上がってくだろ?」 当然のように言うその一言に、俺はそっと首を振った。 「服、濡れてるし。靴の中もびしょびしょで。だから……」 その瞬間、星七は何も言わずにバタバタと2階へ駆け上がっていく。 (え、何。) 少しして、階段の上から降りてきた彼の手には――タオルが。 「ほら」 笑顔を浮かべながら、俺にタオルを差し出す星七。 俺はそんな彼を見ながら、無意識に口元を緩めていた。

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