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16.夢うつつ(藍沢side)
「うは~今日も動いた~」
軽くシャワーを浴び、半袖と半パンの部屋着に着替えた星七が、ベッドにばたんと寝転がる。
「藍沢もシャワー浴びればいいのに」
俺はベッドのそば、壁を背にして片膝を立てて座る。
肩にかけたタオルで、軽く頭を拭いた。
「普通に考えて、着替えないから無理だろ」
「……あ、そっか。じゃあパンツ、乾かしといてあげよっか?」
「ばか」
ふたりで笑い合う空気は、あたたかく、心地がいい。
俺たちは同じ最寄り駅を使っているが、歩けば互いの家まではおよそ30分の距離がある。
スマホで天気予報を確認すると、夜まで雨が降り続くらしい。
「星七、傘ひとつ借りて――」
そう言いかけて振り返ると、そこにはすでに、静かに寝息を立てている星七の姿があった。
(……長いまつ毛)
少し伸びすぎた前髪は、彼の目元を簡単に覆ってしまっている。
(髪、切ればいいのに。……まあ、人のこと言えないか)
部屋の隅にある勉強机に目をやると、参考書とノートが開いたまま、雑に積み上げられていた。
そのすぐそばに、伏せられたままの写真立てが一つ。
俺はそっとそれを手に取る。
映っていたのは、中学生の頃の俺たち3人の姿だった。
俺と星七、そして――数年前に事故で亡くなった、友人のアキ。
ふと振り返ると、星七は深い眠りの中だった。
写真立てを元に戻し、俺は彼のそば、ベッドの端に腰を下ろした。さら、と前髪をかき分けると、星七が夢うつつに、何かを呟く。
「ドリブル……シュート……」
(バスケの夢か)
懐かしい情景が、胸に蘇る。
夜遅くまで体育館でシュート練習していた、あの頃の星七。
「テスト……範囲」
「勉強……部活……バスケ、時間」
「もっと練習、しないと……」
星七……。
――星七は、いわゆる天才肌ではなかった。
器用にこなすタイプでもない。
それでも、星七がバスケに強くこだわったのは、
“アキが、バスケ部だったからだ”。
勉強も、バスケも。
人よりずっと努力しているのに、誰もそれを知らない。
星七の過去を、誰も知らない。
……そう。俺以外、誰も。
俺は星七の唇に、そっと唇を当てる。
(…片桐 壮太郎か…)
俺はしばし星七の顔を眺めたあと、静かに部屋を後にした。
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