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20.お祭り3
――あれから。
片桐君とふたり、たこ焼きを食べたり、射的をしたりして屋台をまわっていると、時間はあっという間に過ぎた。
「片桐君、射的上手だね」
人混みの中を歩きながら、俺は笑って声をかける。
「全然ですよ」
「またまた〜。全部当ててたじゃん」
彼の上手な射的の様子と、そのモデルのような容姿からか、足を止めて見ていた人が周りにちらほらいたくらいだ。
……それに比べて俺は、というと。
「俺なんて、ほぼ的外れちゃったよ。恥ずかしい」
片桐君のあとだったから、余計に下手さが目立ってしまった気がして、苦笑いしか出てこない。
「はは、でも当たってたじゃないですか。俺は、こういう屋台の射的とかよくやる方だと思うんで、それで慣れてるだけですよ」
ニコ、とフォローを入れるように話す片桐君に、なるほど…と俺は納得する。
でも確かに、彼が射的下手なイメージって、無いもんな…。何でもカッコよく決まるというか、たとえ失敗したとしても、絵になりそうな。
屋台が立ち並ぶ賑やかな人通りを歩きながら、俺は隣を堂々と歩く彼の姿を見る。
すると、くるり。彼の顔がこちらへと振り向いた。
「どうかしました?」
――どきっ
「…あっ、えっと」
自分でもよく分からない。
けど、彼のことをずっと見てしまっていた気がする。
なぜだろう……。
もしかしたら、彼の”カリスマ性”みたいなものを、無意識に感じ取っているんだろうか?
「え~マジで?あはははっ」
――ドンっ
「ぅわっ」
そんなことを考えながら歩いていると、向こう側から歩いてきた人と体がぶつかった。思わずバランスを崩しそうになった瞬間、背後から大きな手に支えられる。
そっと傍に立つ彼を見上げると、片桐君の射貫くような瞳が、俺を静かに見つめていた。
「…大丈夫ですか?」
どことなく、近くで見えたその力強い瞳が、”彼”に似ている気がした。
「すみませ~ん」
謝って去っていく人の影を目の端に映しながら、俺ははっとするように我に返る。
「ご、ごめんっ片桐君!」
人混みの中、長らく立ち止まってしまっていたことに気づき、俺は慌てて歩みを進める。
胸の内側が、ざわざわと音を立てている。
「星七さん?」
後ろからすぐ、駆け寄ってきた彼の声が聞こえた。
「そんなに急いで……突然どうしたんですか?」
俺は、ふと頭に蘇ってしまった”過去”を打ち消すように、笑みを浮かべる。
「あ。歩くの早くなってた?」
「…少し」
「ごめん。突然人とぶつかって、それでちょっと…びっくりしちゃってさ」
笑顔を向ける俺を彼が見つめ、何か言おうとした気がしたが、その口は一度閉じられた。
「そうですか」
にこりと、ほぼいつも通りの顔を浮かべる彼の姿から、俺はふっと視線を逸らした。
早まっていた歩くペースを、ゆっくりめに抑えていく。
……気をつけなきゃ。
動揺なんかしたりして、何やってるんだ…俺。
感情が突っ走ってしまったら、また、あの時のようになってしまう。
……あの事故のときのように――
そのとき、バンッ、と空に大きな音が響いた。
花火が上がった音だった。
俺はそっと、潤いを含んだ瞳で明るい夜空を見上げた。
心が震えた。
でも、それは目の前に映る花火を見たからじゃない。
「綺麗だね」
思ってもいない言葉は、案外口からスラリとこぼれ落ちた。
あの日の記憶は心と体に深く染み付き、
5年経った今もなお、俺はあの頃から1歩も踏み出せていないまま。
騒がしいはずの人々の声が、どこか遠くで聞こえるような感覚に陥った。
俺は、幾度となく映し出される花火の向こう側を、見つめ続けた。
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