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21.気になる人(片桐side)
「お先です」
ある晴れた夏の夜。
居酒屋でのバイトを終えた俺は、軽く挨拶を交わして店の外に出た。
大学では部活にも所属せず、昔の仲間とも距離を置いた今、俺の生活は極めてシンプルだった。
明日も、その次の日も、バイト漬けの日々だった。
「ねー!片桐君、一緒に帰ろうよ〜」
斜め掛けのカバンを肩にかけ、ズボンのポケットに両手を突っ込みながら帰路についていると。
後ろから同じバイト先の女先輩が声をかけてきた。
「いいですけど、家どこですか?」
「電車で2、3駅先のところ?」
にこっと笑顔を向けてくる先輩から目を逸らし、うん…と少し考える。
「俺、家すぐ近くなんですけど、どうします?」
すると、先輩は一度目を開いてから、楽し気な表情を浮かべる。
「うーん。行ってもいいよ!片桐君のとこなら」
……?
「どういう意味です?」
「え?だから、片桐君の家に行くんでしょ?今、誘ってきたんじゃないの?」
「…じゃなくて。家まで送った方がいいかと思って、聞いただけです」
「えっそうなの?なんだ〜…」
先輩は落ち込むような声を吐いたが、すぐに歩く俺の片腕にすっと手を絡ませてきた。
「ね、片桐君って今彼女いないの?あそこでずっとバイトしてるよね。もしかして、プレゼントのためとか?」
バイトの女子みんな、片桐君狙ってるよ~。
心底どうでもいい話を隣で話す彼女に、俺はやがて、歩みを進めていた足を止める。
「あの。一旦手、離してもらっていいですか」
腕に絡まっていた手を引き剥がすと、先輩は眉を寄せながら、顔を赤くさせていた。
「なっ…」
じっとその姿を見つめていると、彼女はそのうち、駅に向かってひとり、足早に立ち去って行った。
一人暮らしのアパートの部屋に着くと、俺はベッドに仰向けでどさっと倒れこんだ。
……疲れた。色んな意味で。
『片桐君って今彼女いないの?』
ふと、さっきの彼女の言葉が頭の中でリフレインした。
(彼女か…)
俺はスマホを手に取り、遊園地や夏祭りで”彼”と撮った写真を見返した。
(……ハァ。なんでよりにもよって、同性が気になってるんだよ、俺は…)
そういえば――
『ごめん。突然人とぶつかって、それでちょっと…びっくりしちゃってさ』
夏祭りのときの星七さん、何か様子が少し変だった。
本人は必死に平静を装っていたようだったが。
(……何だったのか、気になるな)
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