21 / 151

21.気になる人(片桐side)

「お先です」 ある晴れた夏の夜。 居酒屋でのバイトを終えた俺は、軽く挨拶を交わして店の外に出た。 大学では部活にも所属せず、昔の仲間とも距離を置いた今、俺の生活は極めてシンプルだった。 明日も、その次の日も、バイト漬けの日々だった。 「ねー!片桐君、一緒に帰ろうよ〜」 斜め掛けのカバンを肩にかけ、ズボンのポケットに両手を突っ込みながら帰路についていると。 後ろから同じバイト先の女先輩が声をかけてきた。 「いいですけど、家どこですか?」 「電車で2、3駅先のところ?」 にこっと笑顔を向けてくる先輩から目を逸らし、うん…と少し考える。 「俺、家すぐ近くなんですけど、どうします?」 すると、先輩は一度目を開いてから、楽し気な表情を浮かべる。 「うーん。行ってもいいよ!片桐君のとこなら」 ……? 「どういう意味です?」 「え?だから、片桐君の家に行くんでしょ?今、誘ってきたんじゃないの?」 「…じゃなくて。家まで送った方がいいかと思って、聞いただけです」 「えっそうなの?なんだ〜…」 先輩は落ち込むような声を吐いたが、すぐに歩く俺の片腕にすっと手を絡ませてきた。 「ね、片桐君って今彼女いないの?あそこでずっとバイトしてるよね。もしかして、プレゼントのためとか?」 バイトの女子みんな、片桐君狙ってるよ~。 心底どうでもいい話を隣で話す彼女に、俺はやがて、歩みを進めていた足を止める。 「あの。一旦手、離してもらっていいですか」 腕に絡まっていた手を引き剥がすと、先輩は眉を寄せながら、顔を赤くさせていた。 「なっ…」 じっとその姿を見つめていると、彼女はそのうち、駅に向かってひとり、足早に立ち去って行った。 一人暮らしのアパートの部屋に着くと、俺はベッドに仰向けでどさっと倒れこんだ。 ……疲れた。色んな意味で。 『片桐君って今彼女いないの?』 ふと、さっきの彼女の言葉が頭の中でリフレインした。 (彼女か…) 俺はスマホを手に取り、遊園地や夏祭りで”彼”と撮った写真を見返した。 (……ハァ。なんでよりにもよって、同性が気になってるんだよ、俺は…) そういえば―― 『ごめん。突然人とぶつかって、それでちょっと…びっくりしちゃってさ』 夏祭りのときの星七さん、何か様子が少し変だった。 本人は必死に平静を装っていたようだったが。 (……何だったのか、気になるな)

ともだちにシェアしよう!